2025年6月12日付フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、アラン・ビーティが、貿易戦争が始まる前からトランプは中国に敗けている、中国は以前からレアアースを武器にしてきたと述べている。

米中貿易ロンドン協議で、米中は、滑稽なほど曖昧な協力の枠組みに合意した。米国はその合意を固めるために握手を求めた。しかし皮肉にも、トランプは取引が非常に下手で有名だ。彼は交渉も旨くない。
今までの駆け引きでは、中国が明らかに勝者である。トランプは、就任以来課してきた厳しい対中関税のほとんどを既に解除している。
米国がその見返りにとったのは、中国が4月4日に課したレアアース(希土類元素)輸出規制の解除だが、それは曖昧な約束だ。中国の4月のレアアースの輸出停止は、精密に狙いを定めた一撃だった。
2010年代初頭の規制は、中国以外の国での採掘の拡大や、違法業者による密輸によって効果が削がれた。4月の中国の規制は、ジスプロシウムのような国外に有力な生産者がいない「重希土類」を中心にしたものであり、発表後にその価格は急騰した。
2010 年代以降、中国は違法なレアアース生産と密輸を厳しく取り締まり、今では生産は国家の厳格な管理下にある少数の企業に集中している。最近の規制は、防衛関連生産に使われる軍民両用の輸出ライセンス制度を通じて実施され、当局が供給網を統制し易くなっている。
今回のレアアース規制は、中国が米国の影響圏から引き離そうとしている国々にもダメージを与えている。欧州の自動車メーカーは、これに激しく抗議している。レアアースの買い手全てを敵に回すのは政治的にリスクが高いが、中国は少なくとも欧州企業と米国企業の扱いに差をつけている。中国に30以上の工場を持つフォルクスワーゲンの部品供給業者は、レアアース購入のライセンスを真っ先に受け取った。中国はトランプ政権の無能に余裕をもって対処している。
一方、米国にも対抗手段があるが、精密な標的に問題がある。トランプは、中国製品への高関税が中国を屈服させると考えていた。確かに中国は、輸出依存の成長モデルを続け、外需依存に脆弱だ。しかし、トランプの無差別な関税措置により、米国企業は重要な産業資材の入手先を失うリスクとともに、消費物資の入手も覚束なくなる恐れも出てきた。米国の対中輸出規制も、その多くが簡単に回避されてしまった。
中国は急速に独自の半導体技術を開発した。同様に、トランプの最近導入したチップ設計用ソフトウェアの輸出規制で米国が中国から失地を回復できるようには思えない。