2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月30日

 「重要な物理的資源の供給を制限する」という中国流の戦い方のように、トランプが化学産業で使われるエタンガスの輸出を制限することは、むしろ米自身や同盟国企業にダメージを与える可能性が高い。ドル決済システムへのアクセス制限といった強力な武器があるが、それを大規模に使うことができるかどうかは検証されていない。

 もしトランプが次の交渉で勝利したければ、自らの武器を正確に評価し、それをより精密に使用する必要がある。しかし、歴史はその実現可能性は極めて低いことを示している。

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中国はトランプ政権に余裕をもって対処

 米中は、急遽ロンドンで開催された貿易協議(6月10~11日)で、4月に中国が発動したレアアースの対米輸出停止につき、中国が輸出を承認し、米国は対中半導体関連ソフトウェアなどの対中輸出規制を緩和することに合意した。トランプはこの「枠組合意」を大きく宣伝しているが、今回のロンドン協議につき、メディアの評価は極めて厳しい。

 ワシントン・ポスト紙は「トランプは中国を誤算した」と題する社説(6月10日付)を掲載した。ウォールストリート・ジャーナル紙 は、「トランプには対中貿易戦略がない」と題する社説(6月11日付)を掲載し、「米中は戦術的な撤退をしただけで、それは中国の力を示すものだ」、「一層賢明なやり方は同盟国と連合を組むことだ。トランプのやり方は中国と同盟国に対する場当たり的な関税攻撃だ。それは中国の力を増大させ、今回の合意のように喜べるようなことは何もない」と批判している。

 FTのビーティも、今回の合意を酷評する。ビーティは、「米中は、滑稽なほど曖昧な協力の枠組みに合意した」、「トランプは取引が非常に下手で有名だ」、「彼は交渉も旨くない」、「中国はトランプ政権の無能に余裕をもって対処している」等、トランプに手厳しい。

 今回のレアアースの米中合意については、明確な文書は何も出ておらず、文書があるかさえ定かではない。報道によれば、中国は対米レアアースの輸出承認を元に戻すことに合意し、米国は最近規制を強化したジェットエンジンやエタノール、半導体作成ソフトウェアなどの対中輸出の緩和に合意したという。さらに今回の合意は、向こう6カ月に限られているとも言われる。

 4月以降、中国の規制により、米国のレアアースの輸入は半減し、一部企業は製品の生産中止に追い込まれる等問題は深刻化した。そのため 6月5日にはトランプが習近平に直接電話をし、ロンドン協議が行われることになった。

 抑々今回の米国の対中立場は弱かった。トランプ流のやり方では、解決は常に曖昧で、問題は永遠に解決されずに残る。問題は一つひとつ具体的に解決しながら前進していくことが必要だろう。


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