2025年12月14日(日)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年12月5日

 米国の農業と裁判を長年揺るがしてきた除草剤「ラウンドアップ(成分名:グリホサート)」を巡る訴訟が、2025年12月、劇的な急展開を迎えた。数万人のがん患者と彼らを支援する弁護士たちが「この除草剤のせいでがんになった。バイエル社は州の規制を遵守して、危険性を警告すべきだった」と訴え、ドイツの巨大企業バイエルが「ラウンドアップは安全だから、警告など不要だ」と主張している。

 これまでの裁判では「警告しなかった企業が悪い」という判決が相次ぎ、バイエルは巨額の賠償金に苦しんできた。ところが、ここに「最強の助っ人」が登場した。トランプ政権である。

(AP/アフロ・dvids)

 「国の機関である米環境保護局(EPA)が安全と判断しているのだから、州がこれを無視して、勝手に『危険だ』と警告させるのはルール違反だ」と宣言したのだ。その結果、係争中の数万件の訴訟はすべて取り消しになる見通しだ。

 これは単なる一企業の救済劇ではない。アメリカという国の「ルールの優先順位」を書き換える歴史的な転換点である。

トランプ政権のウルトラC

 司法省の法務総監であるジョン・サウアー氏は25年12月1日、連邦最高裁判所に意見書を提出した。主張をわかりやすく言えば、「国が良いと言っているのに、州政府がダメ出しをするな」ということである。その内容は、バイエルにとってこれ以上ない朗報であった。

 国の機関であるEPAは「ラウンドアップには発がん性はないのだから、警告ラベルは不要」という立場だ。これに対して、カリフォルニア州などは、「我々の州の法律では、発がんリスクがあるなら警告ラベルを貼る義務がある」と主張している。このような食い違いを企業の立場から見ると、「ラベルを貼るな」という国の命令と「ラベルを貼れ」という州の命令の両方を守ることなどは不可能ということになる。

 州の主張を否定して、国の命令が絶対的に優先されるとしたのが政権の判断だが、最高裁判所がこれを認めれば、現在係属中の数万件のラウンドアップ訴訟は、ドミノ倒しのように一気に消滅することになる。


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