消えない火種
この合意で米中貿易戦争は一段落したのだろうか。そうすんなりとは進まないだろう。なにより、今回の合意にはそもそもの発端となった関税率をめぐる解決案は含まれていないようだ。
特に中国側はセカンダリー関税を警戒している。セカンダリー関税とは中国から部品を輸入し、完成品に加工して米国に輸出しているベトナムやメキシコなどの国に対し、中国部品に高い関税をかけることを条件に、当該国への関税は引き下げるというもの。
中国商務部報道官は6月28日にも「中国側の利益を犠牲として、相互関税引き下げのディールを成立させることに断固反対する。もしこうした状況が出現すれば、中国は絶対に受け入れない。断固として報復措置をとり、自身の正当な権益を守る」と発言している。
つまり、米国とその他の国々の合意を受けて、中国がレアアース規制を再び発動することは十分考えられる。今年4月に導入された規制は軍事用途と民間用途の双方に使われる物質の貿易規制という立て付けで導入された。審査して軍事用途に使われないことが確認されれば輸出を認可するはずだが、審査期間が長く輸出の妨げになっているほか、軍事用途に使われていない場合でも認可するかどうかは中国当局の胸一つで決まってしまう。アンフェアとの印象しかないが、これまで米国も同様の手法で対中輸出を規制してきたことも事実だ。
米中が合意したといっても、中国は審査制度を撤回する意思はないようだ。たんに認可を増やすだけという形で対応し、いつでも規制できる仕組みは残しておくもようだ。また、認可する量もしぼっており、外国企業が在庫を増やせないようにする構えも示している。
また、米紙ウォールストリートジャーナルによると、精錬技術の優位確保を目指して、中国人専門家のパスポートを取りあげ、海外に行けないようにしているという。これは、レアアースに関する高度な技術やノウハウが国外に流出することを防ぐための徹底した「人の管理」であり、レアアースという「切り札」を守ろうとする意志の表れに他ならない。
振り返れば中国はレアアース輸出規制の実効性を高めるための改革を続けてきた。2010年の規制後は利益を狙った中国企業が海外に密輸する“反逆行為”が乱発した。そこで中小企業を淘汰し管理をしやすくするなどの対策を講じている。
磨き続けてきた伝家の宝刀が今、その力を発揮している。さらに鋭利にするための工夫を怠っていない。
米中が激しく対立している以上、レアアース輸出規制がたいして緩和されない、あるいは再び強化される可能性は十分に考えられる。二大国の対立に巻き込まれる形となった日本も対策を講じる必要がある。
