2025年12月5日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年7月2日

レアアースの重要性

 レアアースは、その名の通り希少な鉱物資源の総称だが、その重要性は計り知れない。電気自動車(EV)の高性能モーター、戦闘機のレーダーやミサイル誘導システム、風力発電のタービン、スマートフォンの振動モーターまで、現代のあらゆるハイテク・軍事技術には欠かせない。俗に「産業のビタミン」と言われる。

 炭水化物やタンパク質、脂質の三大栄養素には含まれないものの、不足すれば健康を損なってしまうのが各種のビタミンだ。レアアースも主要な材料ではないものの、不足すれば産業そのものが成り立たない重要物質だ。

 中国の輸出規制によって、日本自動車メーカーのスズキが一部車種の生産調整を行ったことが報じられた。世界的に見ると、米フォード、独BMWなどの自動車メーカー、インドの電動バイクメーカーであるバジャージ・オート、自動車部品大手のボッシュなどの生産に影響が及んだことが明らかになっている。

 なぜ、一部のメーカーだけが生産調整となったのか。メーカーごとに備えが違ったと指摘するのが、自動車業界に詳しい鈴木万治氏(スズキマンジ事務所代表)だ。

 「影響の大きさはHEVを含む電動車の生産量で決まる。それ故に、もっとも戦略的な対応をとっていたのはトヨタだ。同社はインドやオーストラリアなど調達元を複数化していたほか、中国が輸出規制を行えば大きな影響が出る材料については在庫を増やしていた。また、レアアース使用量削減やリサイクルの取り組みにも積極的だった。

 スバルが生産調整に追い込まれたとニュースになったが、該当車種の生産台数はさほど多くないので影響は限定的だ。他の日系メーカーはまだ影響は出ていない。ホンダは在庫を確保できていた。日産は生産台数、販売台数の調整を通じて、結果的に十分な在庫が確保されたことになったと考えている」

 レアアースは中国が供給網を完全に掌握している。世界のレアアース採掘量の約7割は中国に集中している。それだけではない。精錬能力の9割超を中国が占めている。精錬工程が行われているのはほぼ中国だけ、ゆえに精錬技術も中国が他国を圧倒している。

 地政学的な対立が深まる中、レアアース供給の多元化を目指す動きは広がっているものの、採掘から精錬まですべての分野で追いつくのは時間も費用もかかる。備えが必要とは言われながらも、世界の国々の準備は不十分だった。

 日本には2010年の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件という強烈な記憶がある。中国のレアアース輸出規制は大問題となった。その後、レアアースをまったく使わない、あるいは使用量を減らす代替技術の開発や、中国に依存しない供給網の確保が世界的に進められたが、順調とは言いがたい。

 現状では中国からレアアースを輸入する方が安価で合理的だ。危機への備えが必要とはいえ、市場原理に基づいて行動する企業にとっては負担しづらいコストだ。


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