2025年12月12日(金)

未来を拓く貧困対策

2025年12月12日

 2013~15年にかけて行われた生活保護基準の大規模引き下げについて、最高裁判所は25年10月、「物価下落率(デフレ)調整」手法を違法と判断した。これを受け厚生労働省は11月21日、追加支給と新たな再改定を組み合わせた対応策を公表。だが、その内実は新たな方式による「再減額決定」と「一部補償」、「原告に限定した特別給付」を併存させる複雑な構造で、司法の趣旨を損なうとの批判が広がっている。対応策は複雑で、制度に詳しくない読者には理解しづらい構造となっている。

(SakuraIkkyo/takasuu/gettyimages)

 本稿では、厚労省の方針、メディアの受け止め、法的・政策的な課題、そして今後の見通しを整理し、はじめてこの問題に触れる読者のために解説する。

最高裁判決と厚労省の対応方針

 13年から15年にかけて行われた生活保護基準の引き下げについて、最高裁判所は25年10月、厚生労働大臣の判断過程が合理性を欠くとして、減額処分を違法と認定した。判決は、物価下落率を一律に反映させる「デフレ調整」を主要根拠とした引き下げを違法とし、生活保護法上の裁量を逸脱したと判断した。これにより、原告には改定前基準との差額を請求する権利が生じることになった。

 この判決を受け、厚労省は専門委員会を立ち上げて検討した。専門委員会は、11月18日付で報告書を取りまとめ、厚労省に提出(最高裁判決への対応に関する専門委員会報告書)。これを受ける形で、厚労省は、11月21日に対応策を公表した(報道発表)。 

 対応方針の骨子は、13年改定を遡ってやり直す一方で、単純に改定前基準に戻すのではなく、当時の一般低所得世帯の消費水準との比較に基づき、2.49%引き下げる。違法とされたデフレ調整による4.78%の減額を撤回し、新たな根拠で再度の減額を適用するものである。これにより、追加支給はされるが、差額は値引きされる構造となる。

 対象は全国約300万世帯で、単身世帯の場合はおおむね10万円程度の追加支給が見込まれる。総額は地方負担を含め約2000億円規模に達する。また、原告については、再度の減額分を全額補填する「特別給付」を国費で支給する。これは生活保護法に基づくものではなく、大臣裁量による給付措置となる。

 新たな方式による「再減額決定」と「一部補償」、「原告に限定した特別給付」を併存させる複雑な構造である。まずは、この部分を解説していこう。


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