なるべく問題が大きくならないように、静かに審議を進める。こうした姿勢は、今回の専門委員会でもみられた。厚労省は専門委員会の傍聴をマスコミ関係者に限定し、一般参加者はリアルタイムの動画配信をみるしかなかった。他の審議会や委員会では当然に許される一般傍聴が、今回の専門委員会に限って制限されたのである。
専門委員会がまとめた報告書には、「最高裁は厚生労働大臣の判断の過程を今回は厳格に審査する姿勢をみせたのではないか」という記述がある。原案を作成した厚労省の言葉と実際との乖離を残念に感じるのは、筆者だけだろうか。
地方自治体に迫る前例のない負担
厚労省の対応策は、11月28日に閣議決定された25年(令和7年)度補正予算に盛り込まれた。総額は1475億円。その内訳は追加給付費1055億円、自治体への事務補助401億円、相談センター設置17億円、原告への特別給付2億円である(厚労省「令和7年補正予算案の主要施策集」)。
生活保護費の国負担は3分の2のため、地方負担を含めると全体では2000億円を超える。国の方針通りなら、自治体は過去分の支給事務、システム改修、相談体制整備など、前例のない業務負担を強いられる。現場では、膨大な事務負担と人員確保への不安が広がっている。
しかし、これは見方を変えれば生活保護制度を変えていく、またとないチャンスでもある。
今回の対応は、司法判断を制度に反映する第一歩に過ぎない。違法とされた引き下げ分の補償に限らず、生活保護利用者の権利保障に向けた課題はなお山積している。国と自治体、そして社会全体が、生活保護を「権利」として守るための仕組みづくりに取り組む必要がある。
次回は、こうした流れを受けて、地方自治体がどのように現場で一歩を踏み出しているのかを取り上げる。司法判断を背景に、利用者の尊厳を守るために動き始めた現場の挑戦を追う。
