2025年12月12日(金)

未来を拓く貧困対策

2025年12月12日

最高裁判決後の厚労省方針の全体像

 図1は、最高裁判決を受けた厚労省の対応を3段階で示している。左は判決対象の13~15年改定、中央は再決定された基準、右は具体的な補償措置である。

 当時の改定には「ゆがみ調整」と「デフレ調整」という二つの仕組みがあった。ゆがみ調整は世帯構成による基準額の段差を均すための手法で、最高裁はこれを適法と判断した。一方、物価下落率を一律に反映させるデフレ調整は、合理性を欠くとして違法と認定した。およそ10%の引き下げ率で、そのうちデフレ調整分は4.78%に相当する。

 なお、最高裁は、ゆがみ調整とデフレ調整の併用について、専門的見地から検討されていないとして、全体として違法と評価している(デフレ調整部分だけを違法として一部取り消しではなく、全部取り消し)。

 中央の列は、厚労省による判決を踏まえた保護基準の再決定である。適法とされた「ゆがみ調整」はそのまま維持される。次に、違法とされた「デフレ調整」の代わりに、新たな計算方式として低所得層の消費水準との比較に基づく調整を導入し、2.49%の引き下げを適用した。これにより、違法部分を除去しつつ、一般低所得世帯との均衡を図るという説明がなされている。

 そのうえで今回示されたのが、右側の具体的な対応である。原告と非原告の全員に対して、違法とされたデフレ調整分の差額を追加支給する。ただし、新たな2.49%の減額は適用されるため、支給額は一部にとどまる。

 原告については、別に特別給付を設け、2.49%分を全額補填する措置が取られる。これは生活保護法に基づかず、大臣裁量による特例的な扱いとなる。こうした二段構えは、形式的には基準を一律適用しながら、原告救済を確保する狙いがある。

新聞各社で相次ぐ批判、沈黙する大手紙も

 厚労省が11月21日に公表した生活保護基準の再改定方針に対し、新聞各社は一斉に論評を展開した。地方紙を含む19社の社説を確認したが、厚労省方針を支持する論調は見当たらなかった。

 ただし、読売新聞、日本経済新聞、産経新聞の3誌は事実の報道にとどめ、自社の主張は展開していないことには留意しておく必要があるだろう。この点を深掘りしたい場合は、最高裁判決に対する各社の反応を確認しておくことをお勧めしたい(「違法」と認定された生活保護費の減額、新聞各紙の報道を比較、国はどう動くか?想定される3つのシナリオ)。

 批判の中心は三点に集約される。第一に、違法とされた引き下げ分の全額支給を避けたことへの疑問である。秋田魁新報は「全額補償で被害回復を」と題し、司法判断を尊重しない姿勢を問題視した。西日本新聞や北海道新聞も「一部補償では筋が通らない」と論じ、誠実さを欠く対応だと指摘した。新潟日報は「国は誠実さを欠いている」と強調し、専門委員会を隠れ蓑にした最低水準の選択だと批判した。

 第二に、再度の減額が「蒸し返し」にあたるとの指摘である。朝日新聞は「蒸し返し批判免れぬ」と題し、紛争は一度で終局すべきという原則に反すると論じた。中国新聞も「司法判断踏まえ全額補償を」と訴え、判決の意義を矮小化する政府の姿勢を問題視した。

 第三に、原告とその他の生活保護利用者を分ける構造への懸念である。神奈川新聞は「全利用者への補償こそ」と主張し、特別給付による分断を指摘した。南日本新聞は「違法判決の意義帳消し」と題し、原告救済と非原告の扱いの差が制度への信頼を損なうと論じた。

 こうした批判的な社説は、毎日新聞や中日新聞、東京新聞など全国紙・ブロック紙にも広がった。毎日新聞は「失政直視し全員に補償を」とし、政府の責任を明確に問うた。愛媛新聞や信濃毎日新聞も、司法判断を軽視する姿勢を問題視している。


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