トルコ各地の大声で話しながら闊歩する中国人団体旅行者
トルコは観光大国である。世界観光機関によると2023年の観光客数ではフランス1億人、スペイン8500万人、米国6500万人、イタリア5700万人、そしてトルコは5500万人で世界第5位である。2023年の日本への観光客は2500万人であるから、トルコは日本の倍以上のインバウンドである。
観光大国トルコでもアジア系観光客の中では、中国人観光客が断トツに多く大半を占める。例えば観光名所では中国人ツアーバスは1日に数台見かける。韓国人ツアーバスは1日に1台程度。日本人ツアーバスは80日間の現地旅行中にアポロン神殿で見かけた1台だけであった。
今回のトルコ旅行で気づいたことは中国人の個人旅行者がコロナ前よりも格段に増えたことであった。アランヤではホステルに2泊したが1人旅の中国人の若者が3人いた。イスタンブールのホステルは1泊しただけだが合計8人の中国人バックパッカーに会った。半分は女子だ。ちなみに筆者が80日間のトルコ滞在中に会った日本人は、最終日にイスタンブールのローマ水道橋で遭遇した新婚さんの2人だけである。
さらに中国人の中年女性の長期個人旅行者に今回初めて遭遇した。中国人の女子バックパッカー(年代的にはアラサー以下)は既に10年ほど前から出現していたが、中年女性の個人長期旅行者には今回初めて出会った。
アランヤで出会った成都出身の50代後半の女性はバツイチで子どもはいない。グラフィックデザイナーとしてキャリアを積んで韓国で働いた経験もある。年に1~2回1人で海外旅行するという。今回は3カ月の予定でトルコ・ギリシア・イタリアを巡る計画だ。
イスタンブールのホステルで一緒になった52歳の女性は厦門出身。ファイナンスのスペシャリストだが50歳で退職。中国の民間企業では女性は50歳まで務めると退職金・老齢年金の受給資格が得られるとのこと。
国家公務員で共産党員の夫とは10年以上前に離婚。1人娘は17歳となり、留守番ができるので今回は6カ月の予定で旅行している。イラン、中央アジアを経てトルコに。高校時代にバイクの免許を取り、日本製大型バイクで中国全土を旅行した根っからの行動派である。ちなみに中国では公務員・国営企業幹部などはパスポートを管理され、出国制限されているが、民間人には何ら制限はないとのこと。
またアスペンドスの円形劇場にいた北京からの15人のグループツアーの中年のメンバーの数人は、カタコト英語だが旅慣れているらしく、積極的に英会話をトライしてきた。過去12年間、海外で今まで数えきれないほど沢山の中国人と交流してきたが、相手から英語で話しかけられたのは初めてだった。
中国人の生活水準が向上して中国人の“国際人”が出現するステージに入ったのであろうか。
「ベオグラードは中国人だらけで嫌になった」と嘆くセルビア人
7月5日。イスタンブールのホステルは、新市街のジェザーイル通りに面した古くて不潔な安宿。宿泊客は出稼ぎのアフリカ・アラブ系や職探しのトルコ人が大半。いわゆる観光客は筆者1人だけのようだった。
スーパーで買ってきたコッペパンとソーセージで朝飯をしていたら、冴えない風体の中年男が話しかけてきた。ベオグラードから来たというセルビア人。開口一番「ベオグラードは町中が中国人だらけで嫌になった」と嘆いた。このバツイチの独身中年男はベオグラード市内から郊外のアパートに最近引っ越したという。
セルビアは中国の一帯一路戦略に完全に呑み込まれて、首都ベオグラードでは公共交通機関、工場、建設現場などどこもかしこも中国人だらけという。セルビア政府は優遇策として中国人はビザなしで入国可能にしたので、労働者や商人が押し寄せているらしい。
一帯一路案件の“テッサロニキ~ベオグラード~ブダペスト”区間が開通
中年男によると、バルカン半島経由でギリシアのピレウス港とブダペストを結ぶ縦断鉄道は、一帯一路の戦略的重要案件らしい。ピレウス港~アテネ~テッサロニキ~ベオグラード~ブダペストを高速鉄道で結ぶというプロジェクト。
テッサロニキ~ベオグラード~ブダペストの区間が開通したので中国の進出が加速して中国人が増えるだろうと中年男は不快感を露わにした。「でもセルビアは経済的にはもはやロシアを当てにできないので中国に頼るしかない」と肩を落とした。「ギリシア、セルビア、ハンガリーは“中国のいいなり”だけど、トルコはエルドアン大統領が賢明だから中国と対等に付き合っている」とエルドアン大統領の外交手腕を評価した。
