2025年12月16日(火)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年12月1日

オランダ政府が強権発動

 ところが今年9月30日、オランダ政府経済省が、ネクスペリアの管理権を事実上掌握した。同国政府はGoods Availability Act(物資利用可能性法)という法律に基づき、ネクスペリアに対して1年間にわたり、政府の許可なしに工場・資産の移転や取締役の任免などの重要な決定を行うことを禁止した。

 経済省はその理由を、「ネクスペリアの経営に不健全な傾向が見られ、欧州の産業界にとって重要な半導体の供給に支障が生じる恐れがあるため」と説明した。物資利用可能性法は、東西冷戦中の1952年に施行された法律で、政府に対し企業の管理権を掌握する権限を与えるものだが、実際に適用されたのは今回が初めてだ。

 さらにオランダの企業裁判所は、中国人のA氏をネクスペリアのCEOの座から更迭するとともに、同社の経営に関する議決権を、企業裁判所が任命した独立の管財人に移転した。企業裁判所は、ネクスペリアのステファン・ティルガー最高財務責任者(CFO)を暫定的なCEOに任命した。

 この背景には、ネクスペリア社の内紛があった。オランダの報道機関は、「ネクスペリアの中間管理職たちが、『A氏がネクスペリアのノウハウや資産を中国に移そうとしている』と主張して、企業裁判所に提訴していた」と報じている。

 また欧州のメディアは、米中の政治的な対立も背景にあると見ている。それは、ネクスペリアの親会社ウイングテックが、24年12月に米国商務省の産業安全保障局(BIS)によって、いわゆるエンティティ・リストに載せられたからだ。

 エンティティ・リストに載せられた企業に対しては、BISの許可なしに製品やノウハウを輸出・譲渡することを禁じられる。24年7月の時点で、700社を超える中国企業がこのリストに掲載されていた。さらに今年9月30日には、BISが輸出規制の対象を、エンティティ・リストに載せられた企業が50%を超えるシェアを持つ企業に拡大した。

 つまりウイングテックの100%子会社であるネクスペリアも、米国の輸出規制の対象となる可能性が浮上したのだ。これは、オランダ政府にとっては大きなプレッシャーである。

 10月16日付のニューヨークタイムズ電子版は、米国政府が半導体のように戦略的に重要な業種に携わる企業については、中国の影響を減らそうとしているのではないかという分析を紹介している。ただしオランダ政府が米国政府の圧力によって、ネクスペリアを管理下に置くという強硬措置に出たのかどうかは、公式には確認されていない。


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