デリスキングが遅れていた自動車メーカー
さてネクスペリア危機は、民間企業だけではなく、ドイツの経済エネルギー省も驚かせた。一部の自動車メーカーが半導体危機をめぐり、経済エネルギー省に支援を求めたからだ。
同省のカテリーナ・ライヒェ大臣は、10月28日、「多くの企業が、20年のコロナ禍と22年の天然ガス危機を経験したにもかかわらず、重要な部品の供給について、1社に頼っていた。私には、ドイツ企業が、調達先を分散化していなかったことは、理解できない。もしも私が社長だったら、調達担当役員にプランBを用意するよう命じていたはずだ」と批判した。
ドイツ連邦政府は23年7月に「中国戦略」を公表し、同国の企業経営者に対して、「戦略的に重要な部品については、調達先を多角化することなどにより、中国への依存を減らすべきだ」と要請していた。
だがネクスペリアの半導体をめぐる今回の危機は、ドイツ政府の要請にもかかわらず、ドイツの自動車産業が中国デリスキングを十分に進めていなかった実態を示した。これに対し、メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOは、「自動車業界はコロナ禍の経験を生かしていない」という批判を退けた。
ケレニウス氏は、10月29日、ドイツの日刊紙の取材に対して、「自動車産業はグローバルなネットワーキングに基づく産業だ。したがって、ネクスペリアのように特別なサプライヤーが、サプライチェーンの中で重要な位置を占めることは避けられない。あらゆる部品を、ドイツだけで自給することは不可能だ」と述べた。
ただし米国、中国、欧州などで地政学的リスクが増加している今日、国境を越えたサプライチェーンの寸断が再び起こる可能性は高い。ドイツの自動車産業は、ネクスペリア危機を教訓として、生産に不可欠な部品や原材料の調達先をできるだけ分散、多角化する必要がある。
