代替供給源と目される豪州や米国マウンテンパス鉱山はすでに再稼働しているが、採掘から精錬までを環境規制下で遂行するには困難が伴う。結局のところ、中国の環境無視とも取れる一貫した供給体制に対抗しうる体制は整っておらず、技術・設備・コストのいずれにおいても現状では中国優位を覆すに至っていない。
日本の深海鉱物資源開発の現状と課題
ここで日本の立ち位置を見直すべきである。日本は過去30年にわたり深海資源開発に多額の投資を行ってきた。南鳥島周辺のレアアース泥は世界有数の埋蔵量を誇るとされ、その可能性は折に触れ報道されてきた。しかしながら、開発技術の限界、そして採算性の見通しの欠如が、いまだ商業化の足かせとなっている。
深海6000メートルに及ぶ資源開発は、もはや地球というより月から鉱物を輸送するに等しい難度を有する。日本が誇る有人潜水調査船「しんかい6500」は、1989年の建造以来、太平洋、大西洋、インド洋などで活躍してきた。2017年には1500回の潜航を達成し、2012年には最大規模の改修も完了した。しかし、主たる用途は依然として学術調査であり、産業開発の直接的な足がかりにはなっていない。
しかも、アメリカからはその存在すら無視され、中国からも軽視される始末である。開発技術の向上には時間と予算が必要であるが、それ以上に必要なのは「実用化」への明確な国家戦略と民間企業の覚悟である。すなわち、「調査」から「開発」への移行である。
日本の海洋資源と技術的ギャップ
日本は世界第6位の広大なEEZ(排他的経済水域)を保有している。この海域には、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、そしてレアアース泥といった豊かな海洋鉱物資源が眠っている。しかしながら、これらを経済的に開発するためには高い技術力と資金力が必要である。特殊な採鉱設備、海中の搬送システム、さらに陸上での選鉱・焼鉱・精錬といった一連のプロセスが全て連動して初めて資源開発は成立する。
しかもこの技術に精通しているのは、もはや75歳を超えたベテラン技術者たちのみである。私自身もその最後の世代に属しており、若い世代への継承がなされていない現状は深刻である。経済産業省、JOGMEC、さらには学術界も含め、真に不足しているのは「応用力」と「実践知」である。机上の理論やラボの成果にとどまらず、実地における現場の課題を克服する力こそが、いま日本に欠けている最重要素である。
