新幹線の車両がひっきりなしに行き交う高架橋の下で、ヘルメット姿の作業員がハンマーでコンクリート製の高架橋を叩いている。コンコンコン、カンカンカン──。
作業の主は渡邉裕也さん(31歳)。打撃音の微妙な違いでコンクリート内部の欠陥や空洞の有無を判別する。内科医が患者の胸を指で叩いて、体に異変がないか診察しているようなものだ。その意味で、渡邉さんは新幹線構造物の〝かかりつけ医〟というべき存在だ。

「まず目で見て、周囲と色が異なる部分がないかなど、異変の有無を確認します。心配なところがあればハンマーで叩いて、異音がしないか確認します」
山陽新幹線が新大阪―博多間で全線開業してから今年3月で50周年を迎えた。この区間で橋梁やトンネルなどの土木構造物の検査・調査を行うのはJR西日本の連結子会社「レールテック」。渡邉さんは山陽新幹線支店福岡調査監理センターに3人いる技術リーダーの1人である。
福岡調査監理センターの守備範囲は新関門トンネルから博多総合車両所までの約81キロ・メートル。渡邉さんは日々現場に出向き、これらの構造物の状態を確認する。
この日の仕事場はJR博多駅付近にある高架橋。約100メートルの区間にわたって目視と打音による確認を実施する。列車の走行に危険を及ぼすような変化が発生していないか、新幹線の構造物は2年ごとに検査することが法令で定められている。これとは別に、JR西日本は市街地に設けられた構造物などについて、劣化したコンクリートなどが落下して第三者がけがをするおそれがないか独自に点検している。
山陽新幹線の開業当初、この区間は回送列車が博多駅から約9キロ・メートル南にある車両基地(博多総合車両所)に向かうための回送線だった。2011年3月に九州新幹線が全線開通すると、博多駅と鹿児島中央駅を結ぶ営業線の役割も担うことになった。そのため、この区間は山陽・九州新幹線が共有しているのである。