2025年4月1日(火)

新幹線を支える匠たち

2025年2月24日

 新幹線の客室のドアが開いて、制服姿の警備員が緊張感のある表情で入ってくると、心なしか車内の雰囲気が引き締まる感じがする。

写真左から、沿線を警備する岡田拓也さん、警乗警備員の吉田竜太さん、駅で警戒業務を行う平賀正裕さん。日頃3人が車内に集うことはない。しかし、彼らの仕事は全てつながっている(写真・中村 治)

 警備員は座席上部の荷物棚に鋭い視線を向け、荷物棚に置かれたバッグや袋の状態をチェックすると、続いて視線を下に向け、乗客の様子を確認する。ナイフなどの刃物を持っている人物はいないか、挙動が不審な人物はいないか。警備員は通路をゆっくりと歩きながらこの作業を繰り返す。デッキでは車内設備を指さし、声を出しながら点検する。

 彼らは警乗警備員と呼ばれる。警乗とは警戒目的で列車に乗車して巡回すること。警備員の制服は、新幹線の車内では異質な雰囲気を感じさせるかもしれないが、犯罪を抑止するという目的からひと目でそれとわかるような制服を着用している。

 警乗警備員は通常、東海道新幹線「のぞみ・ひかり・こだま」すべての列車の全区間に乗車している。新幹線車内の警備を強化することを目的に、警乗警備員を増員して、どの列車にも乗車できる態勢を整えた。

 この業務を担うのは、警備業界大手の全日警である。空港、ホテル、商業施設に常駐して警備を行うほか、東京オリンピックやコンサートなどのイベント警備、機械警備やAI・ロボットを活用した新たな警備も行う。

 1989年にJR東海と企業提携を行い、新幹線の警乗警備に加え、主要駅や車両基地などの施設警備、さらに新幹線の線路沿いを見回る沿線警備を担う。JR東海の発足は87年であり、両者が共に歩んできた歴史は長い。

 警乗警備員の吉田竜太さん(35歳)は2009年に入社後、東京駅の警備を経てこの仕事に就いた。剣道2段で柔道や空手など、格闘技の経験が豊富で、普段から筋トレで体を鍛えているという。

「世界に誇る新幹線。その警備を担っていることに誇りを持っています」と語る吉田さんのまっすぐな瞳に、新幹線の強さはここにもあるのだと痛感した

 車内巡回中に注意して見ているポイントを吉田さんに教えてもらった。もしポリタンクを見つけたら車掌に報告して、乗客と一緒に中身を確認する。持ち込みが禁じられている可燃性の液体が入っていないかどうか確認するためだ。刃物を持ち込む際はほかの乗客に危害を及ぼすおそれがないように梱包する必要があり、これにはカッターナイフやはさみも含まれる。小さい子供がはさみで紙を切って遊んでいることはよくありそうだが、これは禁止行為。

 「お客さまにお声がけして、はさみをバッグにしまっていただきます」


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