新幹線が生まれる場所にやってきた。愛知県豊川市にある日本車輌製造の豊川製作所である。
日本車輌製造は1896年の設立から100年以上の歴史を持ち、初代0系から最新のN700Sまで、新幹線車両の製造を担ってきた。小田急電鉄のロマンスカーや東京メトロ銀座線・丸ノ内線など特急・通勤車両の実績も豊富だ。台湾の高速鉄道車両700tなど海外向けも手掛ける。鉄道以外では建設機械や輸送用機器などの製造も行っており、例えば、建設現場でよく見られる大型杭打ち機の製造台数ではトップシェアを誇る。2008年にJR東海と資本業務提携を結び、新幹線の開発でも重要な役割を果たしている。
素朴な疑問がある。新型車両の開発において、JR東海と車両メーカーにはどのような役割の違いがあるのだろうか。同社鉄道車両本部技術部で部長を務める榎本年克さん(51歳)が次のように説明する。
「JR東海さんが『こういうことができないか』と提案し、それを実現するのが我々です」
鉄道車両は車両本体とそこに搭載する電機品などの機器や内装品などの部品に分かれる。車両メーカーは車両本体を設計し、部品もそれぞれのメーカーが設計する。それらを統括するのがJR東海という図式である。
榎本さんが日本車輌製造に入社したのは1995年。歴代の新幹線車両の開発に関わってきたが、「中でも苦労したのがN700系でした」と振り返る。榎本さんの担当は床下の設計だった。床下には制御装置、変圧器、空調装置など様々な機器が取り付けられている。狭いスペースにそれをどのように効率的に設置するか。それが一筋縄ではいかない。機器メーカーは「この機器の性能を最大限発揮するためには、この向きで取り付けてほしい」と言い、JR東海は「メンテナンスのしやすさを考えると、この場所に取り付けてほしい」と、各社がそれぞれ希望を出す。どうすれば全員が納得する機器配置ができるか。各社とやりとりを重ねながら、なんとかベストな形に仕上がった。
最新のN700Sでは床下機器が小型化された。「機器の配置が楽になりましたね」と榎本さんに尋ねたら、「空いたスペースを使って新しい機能を追加したので苦労という点では変わりません」と、苦笑い。同車種ではさらに、床下機器の配置パターンも簡略化されている。N700系で8種類あった配置パターンをN700Sでは4種類に削減。そのため、16両1編成だけでなく、8両や12両でも編成できるようになった。鉄道会社にとっては朗報だが、配置パターンの簡略化の裏に相当な苦労があったことは想像に難くない。
「新幹線車両の設計という仕事に終わりはない」と榎本さんは言う。新しい新幹線車両が完成すればそれで一服つけるのではなく、次の車両を見据えた設計がすでに始まっているのだ。今回の車両で採用を見送ったアイデアをいかに次の車両で実現するか。榎本さんの頭の中は「ここをこう改善できないだろうか」というアイデアでいっぱいだ。