2024年10月6日(日)

新幹線を支える匠たち

2024年9月23日

写真左から田尻大翔さん、吉田慎介さん、山梨美帆さん、藤田有紀さん。お客様が新幹線で過ごす時間を、単なる「移動」ではなく、「旅に楽しさをプラスする」時間に変えるのが彼らだ(写真・中村治 以下同)

 「どれもおいしそうだな」──。出張や観光の往路と帰路、駅の売店にずらりと並んだ商品の中からお気に入りの土産物や駅弁を選ぶのも新幹線旅の醍醐味である。JR東海の駅構内で売店やコンビニを営業するのがJR東海リテイリング・プラス(JR−PLUS)。2023年10月に駅売店やコンビニなどを運営する東海キヨスクと、新幹線車内サービス事業や弁当などの製造を行うジェイアール東海パッセンジャーズが合併して発足した。

 吉田慎介さん(40歳)はスーパーバイザーとして、東京駅の改札内で営業するフードショップ「デリカステーション」5店舗を統括する。改札内だけに、列車が発車する前のあわただしい時間が勝負。店に入った瞬間にどこに何が置いてあるか一目でわかるよう、顧客目線で商品の陳列を工夫する。とはいえ、スピードを最優先にしているわけではない。

 「私たちの優先順位はまず正確であること。そして接客が丁寧であること。その上でお客様に求められて初めてスピードが必要とされます」

店舗内の限られたスペースをいかに魅力的に仕上げるか。吉田さんの想いがそのまま、店舗の姿に反映されていく

 買い物を楽しんでもらえるよう、常に十分な量の商品を陳列するよう心がけているが、夜遅い時間帯では大半の駅弁が売り切れ、残っている商品の中から選ばざるをえないこともある。「できるだけそういう局面を減らしたい」が、逆に大量に準備すると売れ残ってしまいかねない。過去の販売データ、当日の新幹線の座席予約状況、近隣のイベントの有無などを勘案しながら、最適な数量を準備するのが、ストア事業の腕の見せ所である。

 でも、お盆休みや年末年始の時期などは、多少のロスを覚悟で大量に商品を並べる。

 「この時期は年に1~2回しか乗らないお客様が多い。『改札内の売店は品ぞろえが悪いから、次回からデパ地下で弁当を買おう』と思われないようにすることが重要です」

 東京駅は駅弁の激戦区。同じ駅ナカではJR東日本が自社運行エリアである東北地方の名物駅弁をずらりと並べている。駅の外ではデパ地下で趣向を凝らした弁当が販売されているし、コンビニ弁当のコストパフォーマンスも侮れない。そもそもJR−PLUSの店舗では他社から仕入れた駅弁も扱っている。

 500円前後で買えるコンビニ弁当と比べると、駅弁は値段が高いという気もするが、実は明確な理由がある。店舗数だけでも1万を超える大手コンビニチェーンは食材を大量に仕入れ、大量に弁当を作る。これに対してJR−PLUSでは売れる弁当でも1000個程度。その量では採算が合わないという理由で食材の供給を断る事業者もいるという。そもそも、駅弁は列車の車内で食べることを前提に開発されている。すなわち、周囲の乗客に配慮し匂いを抑える、冷たくなってもおいしさを保てるようにする、汁漏れを防ぐ工夫をすることなどが必要だ。常温保存による菌の繁殖を防ぐため、おかずの組み合わせにも気を使う。一般的な弁当と比べると、駅弁にはハンディがある。


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