2023年12月8日(金)

日本〝サイクル社会〟の現在地

2023年11月1日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト、大東文化大学教授

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 筆者は日頃から自転車の大会によく参加しているのだが、自転車に詳しくない知人にそのことを話すとたいてい「大会なんてすごい」と誤解される。ツール・ド・フランスのような大会で、プロがタイムを競い合ってサポートカーが水を渡し、ゴールでガッツポーズをする光景が思い浮かぶのだろう。

初開催された「ツール・ド・九州」(筆者撮影、以下同)

 筆者が参加しているのは市民参加型で基本的に完走を目指す大会だ。それらは大会だが、レースではない。では、日本で行われているレースはどうなのだろう。連載の初回となる今回は、今年初めて開催された「ツール・ド・九州」を通して、自転車レースの経済効果という問題を考えたい。

初開催でも高い熱気

 はっきりいって現地に行くまで少しナメていた。ツール・ド・九州が初開催。そんなニュースを目にしていたが、そこまでの盛り上がりはないだろう、とみていたからだ。

 これもはっきりいえば、九州はサイクルスポーツの後進地だから。沖縄(ツール・ド・おきなわ)を除いてちゃんとした大会がない。自転車人口はいるのだろうが、県ごとの連携も弱い。国土交通省が指定するナショナルサイクルルート(NCR)にも選ばれていない。今年は残念なことに40年間続いていた全国的に有名な市民参加の大会「ツール・ド・国東」(大分県)も運営の担い手不足で終了に追い込まれた。

 ところが、ツール・ド・九州はかなりガチに頑張っているレースだった。初日の小倉城クリテリウム(小周回の街中のレース)、二日目の福岡ステージでは小倉から大牟田まで、二日目の阿蘇熊本ステージは阿蘇山を制覇する山岳コース、三日目の大分ステージは大分のオートポリスから日田市をゴールとするコース。

 筆者は二日目の福岡ステージを福岡県みやま市で観戦したのだが、同市が「チームブリヂストンサイクリング」の児島直樹選手の出身地とあって沿道を埋めた人々、選手たちを追いかけるヘリ、なかなかの熱気であった。これはもしかして成功か、とも思ったが、そう断定するには早い。まずは検証を進めてみたい。


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