だが、JR−PLUSで駅弁開発を担当する山梨美帆さん(32歳)は「駅弁ならではの付加価値を高めたい」と、果敢にチャレンジする。同社が製造する駅弁のうち、最近のヒット商品は6月に売り出された夏季限定の「まるっと鮎煮弁当」。愛知県産のアユを2尾丸ごと使用し、あっさりとした味に煮付けた。「販売開始直後は、アユ丸ごとという見た目にインパクトもあり、目に留まっても購入には至らないお客様もいたようです」というが、SNSでじわじわと認知が広がり、新聞などにも取り上げられ、リピーターも増えている。
今は期間限定の駅弁を担当することが多いが、「長年お客様に愛されるような定番商品を作ってみたい」。目指すは百貨店(デパ地下)で売っているような特別感がありながら、旅のお供にもしたくなるようなお弁当だ。
「競合と全く同じ味では勝つことができません。いかに東海道新幹線の要素を入れて付加価値を高めるかが勝負どころです」
日々のモットーは
優しさ、冷静さ、広い視野
JR−PLUSは新幹線車内のサービス業務も行っている。その業務を担うのがパーサーである。通常は2人のパーサーが乗車し、車内をくまなく巡回しながら乗客の困りごとに対応し、グリーン車の乗客がスマホで軽食やドリンクを注文できる「モバイルオーダーサービス」も行う。
パーサーの拠点は東京と大阪にあり、出社するとカウンターで待機している当直と乗車する列車の入線時刻や携帯品を確認し合う。田尻大翔さん(24歳)は当直とパーサー、両方の業務をこなす、同社では数少ない〝二刀流〟だ。
当直はパーサーの身だしなみのチェックも行う。注意されたパーサーが肩を落とすことも時にはある。田尻さんのモットーは「できるだけ気持ちよく送り出してあげたい」。パーサーが笑顔で乗務すれば、それがお客様にもプラスになると信じているからだ。
田尻さんが感嘆し、今でも憧れる上司の行動がある。ダイヤが乱れ、臨時列車が設定された時のこと。急遽パーサーの手配が必要になったが、予備のパーサーはすでに乗務に出てしまった。乗務できそうなパーサーは見当たらず、上司に「パーサーがいません」と報告した。すると、その上司は何事もなかったかのように「○○さんと、□□さんでいこう」と決めた。
「上司は落ちついて『この駅で○○さんを待機させて、この回送列車に乗車している□□さんをこの駅まで届けて……』など、全体を見渡して予想外のところから玉突きで人員を確保したんです」
優しさ、冷静さ、そして広い視野。これが田尻さんの目指す理想像だ。