2024年12月29日(日)

新幹線を支える匠たち

2024年12月28日

「背中を見て学べ」ではない伝え方
匠たちのたしかな技術と誇り

 火花を見て、音を聞いて、溶接の状況を知る。若手が溶接作業をしているとき、そばを通りかかると、音を聞くだけで溶接時の角度やスピードがわかり、溶接の状態を見なくても善しあしが予想できる。音が悪かったら「こういうふうにしたほうがいいよ」とアドバイスする。

 「私が若い頃とはまったく違いますね」

 松下さんが入社した頃、仕事は先輩が手取り足取り教えてくれるということはなく、先輩の背中を見て学ぶものだと教えられた。でも、あるとき、溶接の練習をしていて何回やってもうまくいかないことがあった。そこへたまたまある先輩が通りかかって、ちらっと見ただけで「そこはこうやってみたら?」とアドバイスしてくれた。

 言われたとおりやったらうまくできた。自分が学んだ技術を惜しげもなく若い世代に伝承し、そして自分はさらに高い技術を追求する。

 「格好いいなあ」

 その先輩のようになりたいと思った。現在の松下さんは、若手に対して「背中を見て学べ」と突き放すのではなく、自分の技をできるだけ次の世代に伝えたいと考えている。

「ポジショナー」と呼ばれる大きな機械を駆使して溶接する部品を固定・動かすことで、より効率的に作業を進めることができる

 新幹線の車両を造るメーカーは日本車輌製造以外にもある。車両の設計はメーカーが共同で行う。車両の部分ごとに分担して設計する。「各社ごとに得意な部分があるので、そこを担当することが多いですね」と榎本さん。各社の分担が完成すると、それらを持ち寄ってお互いに交換して車両の設計図となる。この設計図をもとに各メーカーが車体を造る。つまり、基本的にはどのメーカーが造っても同じ車両が出来上がることになる。しかし……。

 「先頭形状の出来は、他社に負けていないよ」

 松下さんがニヤリと笑った。これが匠の矜持である。

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Wedge 2025年1月号より
移民問題に揺れる世界 水面下で進む日本人の海外流出
移民問題に揺れる世界 水面下で進む日本人の海外流出

世界は今、移民・難民問題で大きく揺れ動いている。事実、2024年11月の米大統領選挙では、不法移民対策が大きな争点となった。彼らは命がけで故郷を離れ、今この瞬間も、米国や欧州大陸を目指し、移動を続けている。その光景は、戦前・戦後に日本人が「出稼ぎ移民」として、ブラジルやパラグアイを目指した姿とも重なる。翻って、現代日本。かつての状況と異なるものの、今、静かに日本人の海外流出が続き、23年の永住者は調査開始以降、最多の約57万5000人に達した。豊かで暮らしやすいと思われている日本から、なぜ日本人は〝脱出〟していくのか。彼らの動きが物語ること、そして、これからの日本社会に必要なことを考えたい。


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