「背中を見て学べ」ではない伝え方
匠たちのたしかな技術と誇り
火花を見て、音を聞いて、溶接の状況を知る。若手が溶接作業をしているとき、そばを通りかかると、音を聞くだけで溶接時の角度やスピードがわかり、溶接の状態を見なくても善しあしが予想できる。音が悪かったら「こういうふうにしたほうがいいよ」とアドバイスする。
「私が若い頃とはまったく違いますね」
松下さんが入社した頃、仕事は先輩が手取り足取り教えてくれるということはなく、先輩の背中を見て学ぶものだと教えられた。でも、あるとき、溶接の練習をしていて何回やってもうまくいかないことがあった。そこへたまたまある先輩が通りかかって、ちらっと見ただけで「そこはこうやってみたら?」とアドバイスしてくれた。
言われたとおりやったらうまくできた。自分が学んだ技術を惜しげもなく若い世代に伝承し、そして自分はさらに高い技術を追求する。
「格好いいなあ」
その先輩のようになりたいと思った。現在の松下さんは、若手に対して「背中を見て学べ」と突き放すのではなく、自分の技をできるだけ次の世代に伝えたいと考えている。
新幹線の車両を造るメーカーは日本車輌製造以外にもある。車両の設計はメーカーが共同で行う。車両の部分ごとに分担して設計する。「各社ごとに得意な部分があるので、そこを担当することが多いですね」と榎本さん。各社の分担が完成すると、それらを持ち寄ってお互いに交換して車両の設計図となる。この設計図をもとに各メーカーが車体を造る。つまり、基本的にはどのメーカーが造っても同じ車両が出来上がることになる。しかし……。
「先頭形状の出来は、他社に負けていないよ」
松下さんがニヤリと笑った。これが匠の矜持である。