2024年12月29日(日)

新幹線を支える匠たち

2024年12月28日

新幹線はいかに造られる?
現場で継承されてきた熟練の技

日本最古の車両製造会社の現場で受け継がれてきた、匠たちの熟練の技

 設計が終わると、いよいよ車両の組み立て作業が始まる。まず、アルミの素材を加工して骨組みや外板などの部材を製作し、それらを溶接で組み上げて構体にする。その後、塗装して床下機器を取り付け、配線・配管などの作業を行い、内装を仕上げる。台車製造も並行して製作所内で行っており、完成した台車と車体を組み合わせ、完成検査や製作所内での試験走行を行い、問題がなければ、大型トレーラーに乗せられ鉄道会社に届けられる。車の通行量の少ない深夜に一般道を走って運ばれる。輸送日は公表されていないにもかかわらず、当日には珍しい光景をカメラに収めようと、全国から大勢の鉄道ファンが豊川にやってくる。

写っているコードは人間にとっての神経回路だ。電力を伝えるもの、モーターを回すもの、車内表示器につながるもの。次々と車体に巡らせていく

 スタッフの案内で豊川製作所の中を見学した。構内には第1から第7まで番号を振られた工場があり、それぞれが部品加工、構体組み立て、塗装、電装、内装、台車組み立てなどの機能別に分かれている。

 構体組み立て工場の一角では、それぞれが微妙に異なる曲線状の細い外板が置かれていた。これらを溶接で一体化すると新幹線の顔ともいえる先頭形状が出来上がった。

 松下浩己さん(62歳)は81年の入社以来、溶接一筋という文字通りの「匠」である。車両の先頭部分、屋根、側面などを担当する。

現場には「品質こそ生命」と書かれた看板がいくつもあった。それを体現し続けてきた矜持を松下さんの表情から、言葉から何度も感じた

 「通勤車両は基本的に四角でシンプルな形だが、新幹線の先頭形状は流線型なので溶接が難しい」と松下さんは話す。四角い通勤車両は溶接部分が少ないが、複雑な形状をした外板を何枚も組み合わせる新幹線の先頭形状は溶接部分が多い。しかし、溶接によって外板に熱が加わるとその部分に歪みが出るおそれがある。新幹線の先頭形状は高速走行で発生する空気抵抗を減らすために、その曲線は綿密に計算されている。溶接時にほんの少しでも歪みが生じると性能をフルに発揮できなくなる恐れがあるだけに、松下さんのような熟練の技が必要となる。

別々の部品だったものを溶かし、つなぎ合わせていく。焦げたようなにおいとともに煙が充満し、遠くからは金属を削るような音も聞こえてきた

 溶接する場所に応じて作業姿勢が変わる。溶接を行う姿勢は下向き、横向き、上向きなどがある。自然な体勢で溶接を行える下向き姿勢とは違い、立ったまま右から左、あるいは左から右に平行移動して壁面を溶接する横向き姿勢は熟練を要する。さらに、上向き姿勢はつねに上を見ながら溶接するという不自然な姿勢を維持するため、非常に難易度が高い。


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