万一の場合に備える
その先にお客様の安心がある
内側だけでなく、危機は外からもやってくる。新幹線の線路沿いを見回る沿線警備もまた、新幹線の安全を支える重要な役割を果たす。岡田拓也さん(32歳)は東京駅の警備を3カ月間務めた後に、東京駅から田園調布付近の間の沿線警備に8年間従事。現在は東京駅付近の本線から大井車両基地に至る回送線の沿線警備を行っている。
不審物はないか、不審者はいないか。門扉はきちんと施錠されているか。「柵の前でずっと立っている人がいて、〝この人は中に入ろうとしているのかな〟と思うことはあります。柵の近くにずっと止まっている不審な車両があれば、運転手にお声がけするようにしています」
主に警備車両で巡回するが、車内から見えない箇所は車から降りて徒歩で確認しにいく。最近は鉄道ファンの危険な撮影行為がしばしばトラブルを招く。
「『新幹線の運転士が柵の上から撮影している人を目撃した』という連絡がJRの指令所からあり、現地に出向いてその人に立ち退いてもらったということもあります」
これまでで最も誇らしいエピソードは何かと吉田さん、平賀さん、岡田さんに尋ねてみた。3人はしばし考え込んだが、みな「うーん」と思いつかない様子。それでも食い下がると、平賀さんがこう話した。
「危機を未然に防ぐのが警備の仕事。何も起きないのは誇らしいことなのです」
なるほど、でも、何も起きないのが当たり前という状態が続くと、緊張感がなくなってしまうのではないか。そこで、さきほどの平賀さんの言葉に思い至った。ただ立っているのではなく、頭の中でいろいろなシミュレーションを繰り返している──。
新幹線の安全は、車両や線路などのハードとシステムやルールなどのソフトの組み合わせによってもたらされている。そこに全日警の警備員も間違いなく加わる。新幹線の車内で安心して過ごすことができるのも、彼らの日々の活動があればこそだ。