吉田さんが心がけているのは「体温(ぬくもり)のあるセキュリティ」。これは全日警のモットーで、警備には人としての温かさが大切だということを示している。そのため、車内巡回中には具合の悪そうな人がいないかどうかも見て回る。そうした人がいれば、横になれる多目的室などを案内することも。
分厚く膨れ上がったベストの中には護身用の防刃手袋のほか、感染防止用の手袋や人工呼吸時に用いるマウスピースなどが入っている。吉田さんは上級救命講習を修了しており、応急処置が必要な場合は、救急車の到着まで人工呼吸や止血などの応急手当てを行うこともある。
「接客や救命の仕事もするとは入社前は知りませんでした」と吉田さんが明かす。当初は警備業に抱いていたイメージと実際とのギャップに戸惑うこともあったが、仕事を続けるうちに、「体温のあるセキュリティ」の意味がわかってきたという。
五感プラス第六感で
危険を未然に防ぐ
不審者や不審物を防ぐ「最初の砦」が駅改札での警戒業務である。平賀正裕さん(39歳)は品川駅で18年間警備をした後、昨年から東京駅で警備を行っている。
主な業務は改札での立哨と駅構内の巡回。改札では挙動不審者や不審物を持ち込もうとしている人はいないかをチェックする。警乗警備員との違いについて尋ねると、「歩きながら警備するのではなく、立ち止まって警備しているので人の表情や挙動が見やすい」とのことだった。
「ただ単に立っているだけのように見えるかもしれませんが、そんなことはないですよ」と平賀さん。「立哨中は常にいろいろなことを考えている」。最悪の事態が起きることを想定し、いかに迅速に行動するか頭の中でシミュレーションを繰り返している。
危険を事前に察知するためには目で見る、耳で聞くといった五感だけでは足りない。五感プラス経験に基づく第六感が必要だという。
「改札から遠く離れている人でも〝あの人大丈夫かな〟と感じることがあります。その場合は特に注意して見るようにしています」
実際に、挙動不審者の様子を観察していたら、その人物が改札を強引に突破しようとしたので止めたことがあったという。ある時には、改札で立哨中、待合室で高齢の男性が急に倒れたという連絡があり、駆けつけてみたらその人は呼吸が止まっていて、自動体外式除細動器(AED)で心肺蘇生を試みた結果、息を吹き返したということも。駅で人が倒れると、救助の様子をスマホで写真撮影しようとする人もいるので、ブルーシートで囲って見えないようにするといった配慮も必要になるという。