栄養学から考える「食と健康」

2018年9月5日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

*第1回はこちら

(dulezidar/iStock/Getty Images Plus)

日本人に「オリーブオイルを食べろ」は意味がない

松永:諸外国の文献を基に「悪い食品」「良い食品」をバチッと分けて、悪い食品を良い食品に置き換えたら健康になれる、という説明をする書籍がベストセラーになりました。エビデンスに基づく、というのが売りで、「オリーブオイルは○、玄米は○、加工肉は×」というような分け方をしています。

 でも、先生のご著書では「この食品は良い、悪い」という二分法はされていません。どうも世間では、エビデンスという言葉がマジックワードになっている気がするのです。エビデンスと言われただけで信じ込んでしまう、というような。残念ながら、栄養学の知識に乏しい知識人が「オリーブオイルがいい。エビデンスがある」などとSNSに書き込むような現象が起きています。

佐々木:では、オリーブオイルについて考えてみましょう。たしかに、アメリカでは「オリーブオイルがよい」と言われていますが、あれは日本人には当てはまらないのです。

 アメリカ人にとっては、今の動物性油脂中心の食生活よりはオリーブオイルを食べる方がベターです。オリーブオイルは多くの店にありますから、アクセスしやすい。今、マーケットにあるものの中からもう少し良いものを、となった時に、アメリカ人が「オリーブオイル」となるのは合理的です。

 ところが、同じ情報を日本人に伝えても意味がありません。その理由は、油の脂肪酸組成にあります。

表1 代表的な油脂の脂肪酸の割合
日本人がよく使う植物油(菜種油や大豆油、ごま油など)の脂肪酸組成は動物性油脂とは大きく異なり、オリーブ油に近い
出典:『佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方』
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 油は栄養学的な意味を考える場合、油トータルの量、つまり油でどの程度のエネルギーを摂取するか、ということと共に、油を構成する脂肪酸の種類が重要です。

 不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の二つがあり、飽和脂肪酸は摂りすぎると心臓疾患リスクを上げるとされています。

 飽和脂肪酸は、動物の脂肪に多く含まれています。たとえば、豚の脂肪(ラード)における飽和脂肪酸含有率は39%、バターは50%です。一方、オリーブオイルは飽和脂肪酸が13%、不飽和脂肪酸が81%です。そして、アメリカ人の食生活は飽和脂肪酸優位型です。それを不飽和脂肪酸に切り替えて行く際に、オリーブオイルはとても身近にあります。アメリカ社会はヨーロッパからの移民の文化が根底にあり、オリーブオイルに慣れ親しんでいます。

松永:だから、「オリーブオイルに切り換えよう」という情報が有効なんですね。

佐々木:そうです。一方、日本人はオリーブオイルをずっと食べて来たわけではない。実は、日本人は不飽和脂肪酸を普通に食べて来たのです。表1の菜種油(キャノーラ油)、大豆油の組成をみてください。菜種油は飽和脂肪酸が7%、不飽和脂肪酸が86%、大豆油はそれぞれ15%と78%です。日本人におなじみのサラダ油や天ぷら油は、菜種油や大豆油など植物油を混ぜたもので、飽和脂肪酸の含有量はオリーブオイル程度です。

 オリーブオイルが健康によい、という海外の論文、エビデンスから読み取るべきことは日本人の場合、菜種油を食べて来てよかったね、であって、オリーブオイルに切り替えよう、ではありません。

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