未来を予見できないのは、想像力が欠如しているからだと言われることがある。しかし、欧州のリーダーたちは第二次トランプ政権発足後に大きな変化があると分かっていても、米欧関係の基本的な前提を覆すような大胆な言動が出ることは予測できなかった。
「ウクライナの次はどうなるのか」

このように危機感を募らせるバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)にとって、彼らの悲願でもあったウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の望みが薄れたことが2月中旬、明らかになった。
ロシアによるウクライナ侵攻後、同国への軍事支援などを調整する「ウクライナ防衛コンタクトグループ(UDCG)」の会合において、ヘグセス米国防長官が、「米国はウクライナのNATO加盟を現実的なものとは見ていない」と明言したからだ。それどころか、数日後のミュンヘン安全保障会議では、ヴァンス米副大統領が「欧州は米国と共有している最も基本的な価値観(すなわち民主主義)から後退している」と非難し、波紋を呼んだ。
筆者の母国であるリトアニアでは、他のバルト諸国と同様、国家安全保障は米欧の同盟関係に基づいているという認識がある。
14年のロシアによるクリミア併合以来、米国は中東欧における軍事的プレゼンスを強化し、19年にはリトアニアに米軍の常設駐屯地も設置した。22年2月のウクライナ侵攻後も、同盟国の支援が到着するまでバルト三国がどれだけ抵抗できるか、社会は緊急事態に備え、何日生き延びることができるのかなどがしばしば議論されるようになった。だが、同盟国のコミットメントが疑問視されることはほとんどなかった。
財源の捻出方法が不透明だが、バルト三国の政府は現在、国防予算を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げる計画を立て、防衛力を強化しようとしている。だが、公的な場では、この地域の安全保障に対する米国のコミットメントについて、疑問視する声が増している。米欧の同盟関係の上に築かれた欧州の安全保障構造全体が、変容の瀬戸際にあるという感覚がある。自国の安全保障の根幹が揺らぐ中、代替策が必要であるという切迫感もある。