食の安全 常識・非常識

2020年12月3日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 2020年のノーベル化学賞が、ゲノム編集技術のツールの1つ、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)を開発した二人の女性科学者に送られることが決まりました。このツールを用いてゲノム編集した高GABAトマトが日本でも近く、国への届出を済ませ、商用栽培へ向けて走り始める見込みです。

 消費者がどう受け止めるのかが気になるところ。危険だと主張する市民団体もあります。でも、ちょっと待って。医療分野と作物や家畜等の品種改良でのゲノム編集技術の使われ方はまったく異なるのに、一緒くたにして「リスクが……。生命倫理が……」などと解説するメディアや市民団体が後を絶ちません。この2つを区別しないと、ゲノム編集技術の意義も問題点も理解できないでしょう。なにが違うのか、しっかり知ってください。

2020年ノーベル化学賞に、ゲノム編集技術の1つを開発した2氏が決まった(写真は2015年10月当時、ロイター/アフロ)

遺伝性疾患の治療が可能に?

 ゲノム編集は、生物が持つゲノムのDNAの特定の場所を切り遺伝子を変異させる技術です。ツールが複数開発されており、CRISPR/Cas9は、CRISPRでゲノムの特定の場所に付きCas9という酵素でDNAを切る、というやり方。ほかの方法に比べてより簡単にゲノム編集が行え、技術としての応用性も高いため、2012年に論文発表されて以降、一気に利用されるようになり、わずか8年後にノーベル化学賞受賞となりました。

 医療分野ではたとえば、CRISPR/Cas9を直接、患者の体内に入れて遺伝子を変異させ遺伝性疾患を治療したり、患者から取り出した免疫細胞をシャーレの中でゲノム編集して体内に戻しがんに対する免疫を強化したり、というような研究が行われています。

ゲノム編集ベビーに、高まった批判

 ゲノム編集ベビーの問題も起きました。2018年11月、中国の研究者が受精卵をゲノム編集し双子が生まれたと発表しました。世界中で報道され話題となり、「倫理に反する」という批判が強く出ました。中国の裁判所が19年12月、研究者に対して3年の実刑判決を言い渡しています。

 こういう話を聞くと、期待が高まると共に「遺伝子を、人為的に自由自在に変えて良いのか? いじってよいのか?」という疑問が生じるのは当たり前。生命倫理の深遠なる課題に考え込む状況になるのも無理はありません。

 しかし、作物や家畜を品種改良してゲノム編集食品を作り出す、という話はまったく別。ところが、同じように「ゲノム編集で、遺伝子をいじってはいけない」と語られてしまうのです。

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