2024年11月21日(木)

食の安全 常識・非常識

2021年12月9日

矛盾も露呈してきたが……

 ただし、世界各国で急加速する栄養課題への取り組みは最近、矛盾も露呈するようになってきました。投資が先行するのは資金に余裕のある欧米。過度の肥満、脂質や塩分の過剰摂取などを悩みとする国々です。食は非常に複雑なのに、わかりやすさを追求し、あまりにも単純に製品に良い、悪いとラベリングし、企業を評価することに対する反発が生まれています。

 この10月、フランスの青かびチーズ「ロックフォール」の生産者が、栄養評価表示制度Nutri-scoreに異論を呈しました。フランスでは、Nutri-scoreが17年4月に導入され、流通などの求めに応じて多くの加工食品が表示を行わざるを得なくなっています。熱量、飽和脂肪酸、食塩、食物繊維などの含有量に応じてAからEまでクラス分けし、包装の前面に表示するもの。欧州連合(EU)でも導入が議論されています。

 ところが、ロックフォールの分類は、糖分の多い飲料やスナックと同じDかE。AFP通信によれば、会見を開いた生産者は「保存料が入った超加工食品はAやB評価で、地元で生産されたわれわれの自然食品は汚名を着せられている」と主張したとのことです。

 ロックフォールの原材料は羊の乳。脂質、とくに飽和脂肪酸が多く、塩辛いチーズは〝悪い食品〟となってしまいました。伝統的な製法にプライドを持つ生産者にとっては耐え難い事態です。

手前がロックフォールチーズ。チーズをはじめとする伝統的な食品は保存性を高めるため高塩分であることが多く、食品単体としては〝悪い食品〟となる可能性がある

 伝統的なチーズは、量を調整しながら食べれば食卓を豊かにするおいしい加工食品です。食が進まず摂取熱量が足りない高齢者も、食文化に根ざしたおいしいチーズがあれば、パンや野菜、果物など積極的に食べられ、栄養補給につながる、というような効果もあるかもしれません。なのに……。

 つまり、製品個々にクラス分けする表示は単純明快ですが、〝悪い〟というレッテル貼りにつながるおそれもあり、本来の栄養改善の主眼である「多数の食品を組み合わせる食生活の改善」への貢献は測れないのです。しかし、ATNIなどの企業評価も、こうした個別食品への表示に重きを置いています。

 日本の味噌や醤油なども同じ憂き目に合う可能性があります。欧米で用いられる指標で評価されれば、漬物や佃煮など伝統食品はどれも「とんでもなく悪い食品」、ということになりそうです。

 さらに深刻なのは、欧米型の指標がアジア型の食生活には適用しにくい、という課題です。それにいち早く注目した味の素は、前述のATNIのローンチイベントで積極的に異論を唱え改善を提案するとともに、日本文化に合う独自の製品表示や栄養改善のアプローチを展開中です。第3回「アジアの特徴を生かす「食を通じて健康に」」では、味の素の西井孝明社長にインタビューします。

■修正履歴(2021年12月14日11時10分)
3頁目の「野村アセットマネージメント」は「野村アセットマネジメント」でした。訂正して、お詫び申し上げます。

<参考文献>
OECD(経済協力開発機構)・Obesity Update
FAOSTAT・Undernourishment
厚労省・日本の栄養政策
厚労省・自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会
AFPBB news「青カビチーズ生産者、栄養評価の見直し要求 仏」
Global Nutrition Report2018
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