食の安全 常識・非常識

2021年12月10日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 東京栄養サミットが12月7、8日に開催され「東京栄養宣言」が採択されました。1 億4900 万人以上の子どもが発育阻害に陥り、子どもたちの死因の約半数が栄養不良に起因している一方、成人から子どもまで過体重や肥満が記録的なレベルで増加し、20 億人が過体重・肥満に陥っていることを示し、栄養への投資の重要性を強調。産官学と市民が連携して取り組んでゆくことを求めています。

 岸田文雄首相は今後3年間で28億㌦、3000億円以上の栄養支援を行うことをスピーチしました。外務省によれば、66カ国および19企業を含む148のステークホルダーから300以上のコミットメントが提出され、約270億㌦の栄養関連の資金拠出が表明された、とのことです。

東京栄養サミットでは、岸田首相もスピーチした(AP/アフロ)

 7日のハイレベルセッションでは、「企業等によるコミットメント」としてビル&メリンダ・ゲイツ財団のビル・ゲイツ共同議長や世界食糧計画(WFP)、アフリカ開発銀行、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の代表者らがオンサイトやビデオで次々にメッセージを発出。日本の食品企業の中では味の素が唯一、スピーチしました。西井孝明代表執行役社長は「アミノ酸の力を活用してイノベーションを起こし、日本が大切にしてきたおいしさと地域の食文化への尊敬を妥協せず、減塩やたんぱく質摂取を推進する。世界のあらゆる地域、世代の人々が健康な食生活を送れる社会へ、日本から世界をリードすることを約束する」と述べました。

長年の研究投資が「おいしい減塩」につながった

 この特集第1回「「食塩過多」に「ダイエット」…… 日本が抱える深刻な栄養課題」、第2回「日本の味噌が〝悪い食品〟? 欧州ルールに飲まれる日」で取り上げた「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」にも、味の素社員が委員として参画しています。栄養課題への取り組みは、短期的には企業にとって大きな負担となることは否めません。製品開発や表示にはコストがかかります。マーケティングの観点から見ても、栄養はまだ、消費者に訴求力のある要素とは言い難く、さらには消費者に「食べ過ぎるな」というメッセージを送らなければいけないこともあります。ほかの日本食品企業の多くが尻込みする中で、同社はなぜこれほどまでに力を入れるのか?

 西井社長は「我が社のルーツに、栄養改善の使命がある」といいます。20世紀初頭、池田菊苗・東京大学教授は欧米人に比べ貧弱だった日本人の栄養・体格の向上を目指して研究を続け、1908年、うま味としてグルタミン酸を発見。グルタミン酸ナトリウムとしての製品化と販売を実現したのが鈴木商店、のちの味の素です。

味の素の西井孝明代表執行役社長(WEDGE)

 今では、うま味は塩味、甘味、酸味、苦味に続く5番目の基本味として認められ、「umami」は英語の辞書にも載っています。「うま味調味料は体に悪い」という報告もありましたが、安全性が国連食糧農業機関(FAO)/世界保健機関(WHO)の専門機関 (JECFA)や各国機関などで確認されています。

 近年は、うま味をうまく活用することによる「おいしい減塩」研究が進んでいます。米国ではうま味の活用で食塩摂取量を3〜8%減らせうるとの論文が発表されました。日本での研究でも、食塩摂取量を1.3〜2.2㌘(12〜21%)減らせることがわかり、現在はプレプリントが公表されている段階。さらに、20カ国での調査解析が東京大学などの研究チームにより進められています。

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