2022年12月2日(金)

食の安全 常識・非常識

2021年12月10日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

 こうした現状を踏まえ味の素が提案するのは、製品単体の評価に加え、食事メニューへの貢献を評価軸に組み入れること。実際に、同社は製品と野菜や肉などを使ったレシピではどれくらいの栄養素を摂れるのか、ウェブサイトで情報提供しています。たとえば、ピーマンとツナ缶、同社の製品「丸鶏ガラスープ」などを炒める「やみつき!無限ピーマン」なら、所要時間5分。1人あたりのエネルギー72 キロカロリー、塩分0.8㌘、たんぱく質7.3㌘、野菜摂取量74㌘……という具合です。

レシピを紹介するウェブサイト「味の素パーク」。材料やつくり方、所要時間のほか、栄養情報が提供されている 写真を拡大

 また、西井社長は、教育の重要性を訴えました。ATNIは、7つの評価軸の中で教育を含む「lifestyle」の比重は2.5%しかありません。しかし、これから栄養の改善、システム構築をすすめるアジア諸国においては、教育効果は非常に大きい、と考えられます。そのため、評価項目の重みづけの変更も求めたのです。

 西井社長は、東京栄養サミットのイベントでもローカルな視点の重さを強調しました。「食の課題解決は、食文化や生活に応じて柔軟であってよい。欧米流を押し付けられては、生活者のためにならない」という信念があります。

早く参画しないと、ルールを押し付けられる

 ESG投資が今、すべての投資においてどの程度を占めるのかは諸説あります。GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)が7月に発表したところによれば、20年の世界のESG投資総額は全体で35兆㌦あまり。調査対象となった機関投資家の全運用資産の35.9%にあたります。

 一方で、日本の食品企業を取材してもそのような熱っぽさはありません。日本の食品企業がESG対応、とくに栄養対策に積極的になれないのは、低価格圧力が強く余力がないこと、消費者のESGへの関心が高まらないことがまずは挙げられます。しかし、要因の一つとして、こうした欧米流の評価指標が幅を利かせ、日本のきめ細かい製品開発や販売努力が認められないことへの徒労感も否定できません。

 しかし、取材で見えてきたのは世界の否定し難い潮流です。西井社長は「だからこそ、議論ができるうちに早くその中に入り、矛盾を問いかけ続けなければ。エビデンスを持って働きかけることが重要だ」と言います。

 西井社長には苦い経験があります。欧州で製品改善に向けて厳しいルールが課せられはじめた14年ごろ、エクアドル政府が栄養成分表示「Nutrient Profiling system(NPS)」として赤黄青の信号マークを導入しました。うま味調味料の主原料はグルタミン酸ナトリウム。ナトリウムが入っている、という理由で、あっという間に機械的に、赤マークの食品に分類され、注意喚起表示をすることになってしまいました。

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