2024年11月22日(金)

食の安全 常識・非常識

2021年12月9日

 地球上の78億人の食料生産と消費による天然資源枯渇や環境負荷、そして気候変動対策(食料生産消費が気候変動から受ける被害と、食料生産消費自体が気候変動を悪化させる両面での対応)なども考慮する必要があります。多方面から食の課題が社会にのしかかってきているのです。

食品企業の栄養軽視は、社会的なコストとなる

 そこで重視されるようになっているのがESG(環境、社会、企業統治)投資です。従来の売上などの財務情報だけでなく、ESG要素を考慮し、企業経営のサステナビリティを評価し投資を行う潮流です。ESG投資に詳しいコンサルティング会社「ニューラル」の夫馬賢治さんは、「世界的には2002年ごろからESG投資を図る機関投資家が増えてきたが、日本で大きく動き出したのは2018年から」と言います。

 栄養や環境への貢献というと、多くの人がイメージするのはCSR(企業の社会的責任)でしょう。食品企業の中にも、CSR活動として途上国における栄養改善援助や国内でのフードバンクサポートなどを行なっているところは多数あります。しかし、ESG投資は寄付や援助ではありません。課題解決に貢献しつつ投資のリターンを追求するのがESG投資です。

 夫馬さんは、食品企業の栄養軽視は、図のように社会的なコストとなる、と指摘します。

企業が栄養を軽視すると消費者の健康が悪化し、生産性低下、医療費負担、保険料増大など社会が大きなコストを支払うことになる (出所)「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」夫馬賢治氏発表資料 写真を拡大

 機関投資家はESGに関する評価において水ストレスや生物多様性、製品のカーボンフットプリント、製品の安全性・品質、労働安全衛生、企業統治などの各項目を企業の特性に応じて重みづけします。食品業界では、栄養・健康への貢献が、高いウエイトを占めています。

製品表示に力を入れる世界の食品企業

 では、海外の食品企業は具体的にどのような方法で、栄養改善を重視した製品やサービスを提供しているのか?

 多くの企業が塩分や糖分、飽和脂肪酸などを減らしてゆくため、年次を区切って目標値を設定しています。世界最大の食品メーカー、ネスレは20年までに製品の塩分含有量を10%削減する、と目標を定めほぼ達成しました。

 ネスレ日本の製品を見ても、栄養成分表示に非常に積極的であることがわかります。日本では、栄養成分表示が義務化されたのは20年4月からで、対象も熱量とたんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の5項目のみ。しかし、ネスレは以前から表示に取り組み、しかも、現在は脂質の中の飽和脂肪酸や炭水化物の内訳(糖質、糖類、食物繊維)なども詳しく表示しています。一食分の栄養を知らせる「ポーションガイダンス」にも力を入れています。

 食べ過ぎに対して注意喚起しているのも大きな特徴。菓子のパッケージでも、「お菓子などの嗜好品は1日200キロカロリーまでが目安とされています」とし「1日2枚まで」と消費を抑制する文言が入っています。「どんどん食べて! 購入して!」ではないのです。

ネスレ日本の製品表示。「お菓子って1日どれくらいまでがいいの?」という問いに対して、「バランスの良い食生活の中で1日2枚までがおすすめです」と答えている(筆者撮影) 写真を拡大

 英日用品・食品大手のユニリーバも、同様に目標値を設定して製品の栄養改善に努めており、減塩についてはWHOの推奨量(1日5㌘まで)を満たす製品が20年には全製品の77%に達しました。


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