2025年12月21日(日)

つくりびととの談い

2025年12月21日

 人がいない。JR瑞浪駅前の商店街は、完全なシャッター街である。開いているのは介護用品店と、数軒の飲食店のみ。駅正面の一等地には学習塾が入居している。ここで生まれた若者には、必死に勉強をして都会に出る以外、未来はないのか……。

 地方の衰退を象徴するようなこの街に、なぜか若い人が集まってくる会社がある。2025年に創業100周年を迎えた中工精機である。

入社して半年目の女性社員も活躍。現場では製缶、加工、組み立ての3つのグループで作業する(写真・Bond 大西史晃 以下同)

 工場を訪ねると、森に囲まれた敷地内に泉水や芝生の広場が整備され、本社の社屋はまるでロッジのような造り。週に一度、サラメシと称して、会長夫人が30人の社員全員に手作りの昼食を振る舞うという。社員の半数が20~30代の若者だ。

左は直径2㍍近い大きさの粉砕機、その上が門型5面マシニングセンタ

 工藤啓祐社長(34歳)によれば、同社は創業当時から一貫してボールミルなどの粉砕機を作ってきた。

 「砕く対象は陶磁器原料であるオールドセラミックスから半導体の材料のニューセラミックス、そして二次電池の材料へと移り変わりましたが、先代(工藤好功会長)のモットーである、お客様のニーズを『清い耳で聞く』ことによって、弊社は時代の変化に柔軟に対応してきたのです」

 もちろん、100年という時間の中にはいくつもの危機があった。最大のピンチはバブルの崩壊だった。

 「それ以前は、地場の窯業向けを中心に標準品を大量生産していました。ところがバブルの崩壊で一気にニーズが多様化して、多品種少量生産に対応せざるを得なくなったのです」

 毎回異なる粉砕機を作るには、図面を読み解く頭脳と高度な技術を持った人材が不可欠だ。中工精機が社員を大切にするゆえんだが、駅前の「人がいない」光景が頭をよぎる。

加工では、鋳物を回して削るターニングという機械を使用。鋳物は天井クレーンで移動させる

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