2024年12月23日(月)

田部康喜のTV読本

2023年3月30日

 「NHKスペシャル メルトダウン」は福島第1原子力発電所(1F)のメルトダウンの原因について、追及の手を緩めずにFile.8(3月18日、19日の前後編)に至った。

 このシリーズは、ドラマとドキュメンタリーを組み合わせた「メルトダウン 危機の88時間」(2016年3月13日)などによって、メルトダウンの真相に迫ってきた。 取材班による『福島第一原発の「真実」』は、科学ジャーナリスト賞2022を受賞するなど、国会事故調査委員会や民間事故調査委員会などのリポートをしのぐ調査報道を続けている。

福島第一原発事故発生から12年が経過しているが、事故原因の究明が求められる(ロイター/アフロ)

 メルトダウンを引き起こした東日本大震災から12年の時を刻んで、新たな真実は明らかになるのか。物理的には、メルトダウンした原子炉内部の様子がいまだにはっきりとわからないばかりではない。時の砂が落ちるにつれて、関係者たちは重い口を開いて証言し、科学者たちの研究が進んでいる。

 被災地の人々の声と復興に向けた動きをメディアが記録するのも重要な役割である。しかし、それとともにメルトダウンがいかにして起きたのか。それを防ぐ手立てはなかったのか。ジャーナリスト魂を長期にわたって燃やし続けているNHKスペシャルの取材班に敬意を払いたい。

「筋読み」と修正繰り返す原因究明

 年月の経過のなかで、ジャーナリスト魂は取材班の人々の異動などもあって、そのバトンが手渡されていったことを思うとき、時代が変わったときにその軌跡が称えられる日は近い。そして、なぜ他のメディアがメルトダウンの原因について、継続して調査報道をしなかったのか、その責任も追及されるだろう。

 朝日新聞経済部記者の大鹿靖明記者による『メルトダウン』が講談社ノンフィクション大賞を受賞したのは、2012年7月のことである。この作品も後世に評価されるだろう。

 その後に同社は、事故当時の1Fの所長を務めていた吉田昌郎氏のいわゆる「吉田調書」の誤報によって、「お詫び」に追い込まれた。

 社会部など警察・検察や、政治部の政局の取材経験が長い記者たちは、「筋を読む」。つまり、事実は取材するものの、どうしても「筋」すなわちストーリーが先行しがちである。描いたストーリーが事実と合致していれば問題がないのではあるが。

 メルトダウンを究明する調査報道にあたっては、事実、特に科学的な事実を丁寧に拾い上げてあたかもパズルを組み立てるような地道な取材が必要であると思う。事実を追っていく中で、筋がうっすらとみえてくる。はっきりとした筋はいまだにみえないからである。

 今回のFile.8は、「メルトダウン 危機の88時間」(2016年3月13日)のドラマ部分をその後の取材でわかったことで微修正しながら、導入部の前編としている。12年前に時計の針を戻してから現状の分析に至る巧みな演出である。後編では、新事実の数々と、ロシアによるウクライナ侵攻後、世界各国・地域で原発の建設とその計画が進んでいるルポルタージュになっている。


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