東日本大震災が巨大地震と津波、そして東京電力福島第1原子力発電所のメルトダウンをもたらしてから12年の年月が流れた。全国放送が追悼と回顧、希望と悔恨を描くなかで、西日本のNHKの地方局が、「南海トラフ地震」に備えて、東日本大震災から学ぶ特別番組を放送した。政府の予測によれば、今後30年以内に70%から80%の確率で発生する可能性があるとしている。
「事件は近いものほど事件である」と新聞記者になりたての頃、叩き込まれた。嫌な言い方をお許し願えば「遠くの火事よりも近くの火事に人々の関心はある」ということになる。
東日本大震災の震災地のフィールドワークを続けながら、ルポルタージュやコラムを執筆してきた筆者にとっても、西日本の拠点を置くメディアの仲間と話していると隔靴掻痒(かっかそうよう)の感があった。それは、東京のメディア人のなかでも実際に震災地を訪れたことのない人にも感じたことがある。
震災地から避難した人々ばかりではなく、この土地で新たに働こうとし移住してくる人々らのための施設づくりについて「震災地は公共事業頼み」だと批判する。第1原子力発電所に溜まった処理水の海洋放出についても、政府の安全基準を大幅に下回って希釈する事実や中国や韓国など、海洋放出に反対する諸国が実は大量の処理水を投棄している事実に知らないか、知ろうとしない。
西日本のNHKの地方局が、東日本大震災発生日の1日前にいずれも放送した内容は、「南海トラフ地震」を扱いながらも、東日本大震災の実態を描くとともに、12年の歳月を経て地震学・防災学の進歩を描きだしている。もちろん、東日本大震災の震災地もその教訓を生かして次の災害に備えているのは間違いない。
その力作の数々は、東日本大震災の震災地を拠点とする筆者にとって、震災地の人々の苦闘のありさまが静かに浸透していることをうかがわせて感慨深い。地方局が震災地とその研究者、関係者を取材しているさまも。