2024年12月7日(土)

Wedge REPORT

2023年3月11日

 「所沢ダイオキシン騒動」を覚えているだろうか。

 1999年2月1日、テレビ朝日「ニュースステーション」(当時)が、埼玉県所沢市の野菜があたかも高濃度のダイオキシンに汚染されているかのように報じた。

 これは、いわば所沢に対する冤罪であった。実際にはリスクを懸念すべき汚染など無かったにもかかわらず、この報道をきっかけに所沢の野菜は不当な「汚染」呼ばわりとともに価格が暴落。長期にわたり深刻な風評被害に悩まされることになった。

 その後、所沢の生産者は「農家の誇りを取り戻したい」「所沢の野菜は安全だということを裁判で証明したい」としてテレビ朝日を相手に訴訟を起こす。その結果、2004年6月16日に東京高裁で「和解」が成立し、最終的にテレビ朝日は和解金1000万円を支払い謝罪することとなった。(『所沢ダイオキシン裁判「和解」 和解金1000万円全額を三宅島と所沢市に寄付』

 それから20年近くが経った今、再び所沢で〝汚染冤罪〟が巻き起こっている。東京電力福島第一原子力発電所事故後の除染で出た土の再利用に向け、環境省が、自ら所管する埼玉県所沢市の「環境調査研修所」、国立環境研究所(茨城県つくば市)、新宿御苑(東京都新宿区)で行う予定の実証事業に対し、「汚染である」と反対運動が活発化しているのだ。

なぜ再生利用が必要なのか

 原発事故後、放出された放射性物質による人や環境への影響を速やかに低減するため、放射性物質が付着したものを除去、あるいは遮へい物で覆うなどの「除染」が行われた。除染によって除去された放射性物質を含む土壌や落ち葉などの廃棄物が大量に生じた。

除去土壌は中間貯蔵施設に一時的に保管されている(2015年3月、ロイター/アフロ)

 こうして出た「除去土壌」は約1400万立方メートルと、東京ドーム約11杯分相当(2018年10月集計時点)にのぼる。これらは、安全に集中的に貯蔵するために、中間貯蔵施設に置かれている。

 こうした除去土壌は中間貯蔵・環境安全事業株式会社法によって、「中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分すること」が国の責務とされている。その処分方法においても福島復興再生特別措置法の基本方針で、「汚染の程度が低い除去土壌について、安全性を確保しつつ、再生利用等を検討する必要がある」と示されている。

 中間貯蔵施設に置かれた除染土壌は、化学処理や熱処理によって量を減らし、汚染の程度が低いものを再利用することで、最終処分量を減らそうとしている。まとまった土壌は本来的には有用な資源にもなり得て、廃棄物扱いとした場合と比べ税金負担の削減につながる。今回の環境省による実証事業は、公共事業の盛土として再利用できるかを調査するものとなっている。

 再利用する除染土壌の基準値(8000ベクレル(Bq)/キログラム(kg)以下)は、作業者が年1000時間扱う想定でも年間追加被曝線量が1ミリシーベルト(mSv)以下(たとえば胃のX線検査やCT検査、PET検査はたった1回でその量を大きく上回る)になるよう設定されている。


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