2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2023年2月1日

「政府と東京電力は、2023年春にも放射能汚染水の海洋放出を強行しようと着々と準備を進めています。いのちの源である海をこれ以上汚染してはならないと、小出裕章さんに原発(放射能)問題を根本から講演していただきます。是非ご参加ください。」──。

 23年1月21日、福島県三春町で行われた講演会『原発汚染水はなぜ流してはならないか』のチラシには、このように書かれていた。この講演会に対しては、福島や廃炉作業への誤解と偏見、風評を助長するリスクがSNSなどを中心に強く指摘されていた。

(luchunyu/gettyimages)

 チラシに記された「政府と東京電力が(中略)放射能汚染水の海洋放出を強行」する予定など実際には無い。海洋放出が予定されているのは多核種除去設備(通称「ALPS」)で無害化が為されたALPS処理水であり、被曝による健康被害が生じる恐れもない。この事実は公開されている実測データの他、国際原子力機関(IAEA)の査察によっても裏付けられている。

 IAEAの査察には、ALPS処理水の海洋放出に強硬な反対をしている中国、韓国、ロシア出身の科学者らもメンバーに含まれていたが、科学的に有効な反論は全く出なかった。つまり、「これらの国々がALPS処理水海洋放出に反対する理由は、非科学的なポジショントーク」ということだ。

 自国でも長年原子力を運用しているこれらの国々が、量の概念やトリチウムの性質を理解できない訳が無い。ALPS処理水に汚染リスクが無いことなど百も承知の上で、「政治的思惑によって」日本の復興政策を妨害している。

 IAEAのラファエル・グロッシ事務局長も日本記者クラブでの記者会見で、「福島第一原発の措置は国際基準に合致している。懸念を表明する国々も、この基準を受け入れているはずだ」と釘を刺し、反対勢力に対し科学的に判断するよう重ねて求めた。

 そうした中、ALPS処理水をわざわざ「放射能汚染水」「海をこれ以上汚染」呼ばわりすることは、海洋汚染による健康被害が生じると誤解する人が増えてもおかしくはない。少なくとも、被災地が苦しめられてきた偏見差別、風評問題の解決に逆行する言説であることは確かだろう。

風評こそが健康被害も含めた実害に繋がる

 その目的は何か。仮に「人々の健康被害を懸念する」のであれば、こうした言説は完全に逆効果だ。風評被害は経済的な損失のみならず、人々の健康にも深刻な悪影響をもたらすからだ。

 最近の研究では、「高い健康不安」は心疾患発症や死亡率を実際に上げることが判っている。たとえ善意から「念のため」「警鐘を鳴らす」などの動機だったとしても、やみくもに健康不安をほのめかす行為自体が大きなリスク要因となり得る。

 これを裏付けるように、世界保健機関(WHO)がチョルノービリ(チェルノブイリ)での原発事故(1986年)を総括した2006年の報告書でも、「メンタルヘルスへの衝撃は、原発事故で引き起こされた、最も大きな地域保健の問題である」と結論付けている。


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