2022年11月28日(月)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年10月12日

»著者プロフィール
著者
閉じる

唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 東京新聞10月3日の1面トップに『「印象操作」批判免れず』の大見出しと、『東電処理水安全アピール実演・トリチウム検知できない線量計・セシウム高濃度でなければ無反応』の小見出しが並んだ。他方、Web版では「東電、トリチウムを検知できない線量計で処理水の安全性を誇張 福島第一原発の視察ツアーで」という見出しになっている。

東京電力福島第一原発の処理水に関する「印象操作」を指摘する報道がなされている(AP/アフロ)

 これに次のような記事が続く。『東京電力が福島第一原発の視察者に、放射性物質のトリチウムが検知できないうえに、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使い処理水の安全性を強調する宣伝を繰り返していることが本紙の取材で分かった。専門家からは「処理水の海洋放出に向けた印象操作と言われても仕方ない」と批判が出ている』

 これに対して東京電力は「処理水ポータルサイト」で同日、「ご視察時のALPS処理水サンプルキットを用いたご説明について」という表題で「やわらかく」反論している 。また多くの人から、「印象操作」を行っているのは東京新聞の方だという批判が続いているので「いまさら感」があるが、あえて一言コメントしたい。

処理水とは何か

 最初に処理水について簡単に解説する。福島第一原発では、多量の放射性物質を含む「汚染水」が発生している。これを多核種除去設備、略称ALPSで処理すると、セシウム 137 など 62 の核種を取り除くことができる。

 その結果、ガンマ線はバックグラウンドと同程度まで下がり、外部被ばくにより人体に影響を及ぼすことはない。他方、トリチウムはALPSで除去することができない。

 処理した水は原発敷地内のタンクに貯蔵している。本年9月22日現在、敷地内には1066基のタンクがあり、これ以上の貯蔵タンクを設置する場所はほとんどなくなっている。そこで政府は2021年4月13日に、トリチウムについては規制基準を十分に満たすよう海水で希釈したうえで、処理水の海洋放出を行うことを決定した。

 22年2月14日から18日にかけて、国際原子力機関(IAEA)調査団が訪日して処理水の安全性について調査し、海洋放出に関する安全面の確保について協力を行うことに合意した 。

 海洋放出については韓国と中国からは海洋汚染を引き起こすとして反対の声明が出され、今回の東京新聞の記事もすぐに韓国のメディアが紹介している。しかしトリチウムは世界各国の原発から日常的に放出され、経済産業省によれば、韓国の月城原発は16年に液体約17兆ベクレル、気体約119兆ベクレル、計約136兆ベクレルのトリチウムを放出している 。

新着記事

»もっと見る