東京電力福島第一原子力発電所(1F)のメルトダウンによる住民の避難命令によって町民が故郷を離れたなかで、福島県富岡町に1人残って、政府が殺処分を命じた動物たちの面倒をみてきた、松村直登さんの物語である。第1級のドキュメンタリーであり、メルトダウンによる震災地が語られるときに、将来にわたって幾度も観られるべき作品である。
「福島モノローグⅡ」(3月13日・Eテレ)は、松村さんをカメラが追った「Ⅰ」(2021年4月)の続編である。海外メディアは、メルトダウンの直後に松村さんを「福島の英雄」と称賛した。
松村さんはいまも、住民が残した牛やポニー、犬、猫を世話しながら、昨年秋の収穫を目指して、稲づくりを始めた。「Ⅱ」はその記録でもある。ナレーションは、『野火』(2015年)をはじめ、幾度となく世界的な映画祭にその作品が招待されている、監督・俳優の塚本晋也さんだった。
モノローグとナレーションが織りなす美しさ
阿武隈山系から太平洋に続く、富岡町の自然がメルトダウンによって壊され、人々の手によって再生されるドキュメンタリーは、東日本大震災の叙事詩である。推敲に推敲を重ねたであろうナレーションと、映像の力を知るナレーターによって、水準の高い作品に仕上がっている。
「壊れちゃった町はすぐにはもとにはもどらね。だから、また長い時間をかけて歴史は作るしかねえわけだ」
――雨の日も風の日も、荒れ地に苗を植えた。失われた大地のきずなをもう一度つなぎなおす。ふるさとの福島の地で――
――その男は、原発事故後も町をずっと離れなかった。ポニー1頭、牛9頭、犬5匹。いまでは200匹になった。取り残された動物の子どもたちだ――
「これは元々畜主(飼い主)がいたんだ。生き物だもの、途中でぶん投げるわけにはいけないだ」
松村さんのモノローグと、塚本監督のナレーションが織りなされる。そこには、形容詞はほとんどない。つまり、「苦しい」とか「ひどい」とか、「悲しい」とか。そのことが、この作品をより、本質的な観る者の心に響く「美しさ」に導いている。