2024年12月12日(木)

Wedge REPORT

2024年12月12日

 『「友だちでした。何も言えない」クマに襲われたとみられる遺体、北大生と判明…キャンパスで沈痛な声、水産学部長「志半ばの若い命が失われたことに深い悲しみ」』──。

 今年4月に筆者が上梓した拙著『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』冒頭の記述である。

 本の執筆を始めたちょうど1年前のこの時期、クマによる被害人数は環境省が統計を取り始めた2008年度調査以来で過去最悪となっていた。全国統計では11月の暫定値時点で22年(76人)の2.8倍以上の212人、死亡例は22年の3倍となる6人に及んだ。

 今年も昨年に続き、日本各地で記録的なクマの出没が相次いでいる。秋田市内のスーパーでは、従業員を襲ったクマが3日にわたって立てこもる事件まで発生した。

人里に出没するクマの殺処分を「かわいそう」と抗議するのは正義なのか(Freder/gettyimages)

 ところが、クマの殺処分には反対する声も相次ぎ、行政には抗議の電話が殺到している。

 これら抗議の大多数は、他人事でいられる地域からのものだ。安全圏から「可愛いクマが可哀想」「命をまもれ」などと安易に抗議すれば、自分が「やさしい」「ただしい」「知的」「いい人」「ヒーロー/ヒロイン」になれたかのような自己満足を手軽に感じることができる。一方で、クマの出没リスクに直面している当事者、被害に遭っている地域にとってクマの殺処分は死活問題だ。

 ところが、当事者の事情など抗議者にとっては「自己満足を邪魔するノイズ」でしかない。事実、抗議の矛先は被害者家族にまで向けられた。中には「(クマの代わりに)お前が死ね!」などの暴言さえ珍しくない。

 「秋田県から人間を追い出せば全てが解決する」などと主張する者まで現れた。抗議者側が、いかに当事者の人権や地域を軽んじているかが垣間見える。


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