東日本大震災から間もなく11年。10年の区切りを経たいまも日常を取り戻すための奮闘は続いている。とりわけ原子力発電所の廃炉という長い道のりを歩むには、次世代の人材育成が欠かせない。その取り組みで注目を集めているのが、東京電力第一原子力発電所から車で約1時間、福島県いわき市にある福島工業高等専門学校だ。
毎年、約15校の高専が出場し、廃炉作業を想定した課題でロボット製作を競う「廃炉創造ロボコン」。2016年に始まり、21年度で第6回を迎えた。会場となる原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センターには、実物大の原子炉のセットが組まれ、そこが競技フィールドとなる。
この大会の発起人であり、事務局を務めるのは、福島高専機械システム工学科の鈴木茂和准教授だ。福島高専では震災前から原子力人材育成を行っていたが「事故直後は原子力に関する教育について表立って言いにくい状況で、学内にも『廃炉にはかかわりたくない』という声がありました」と振り返る。
だが、NHKの高専ロボコンの指導員も務めていた鈴木准教授は、廃炉の問題に全国の高専の技術力とネットワークを生かせないかと考えた。復興に貢献したいという学生たちの思いに、教育・研究で応えたいと、文部科学省の「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」に応募。二度目で採択され、廃炉人材育成事業が本格的に始まった。廃炉創造ロボコンもその一環だ。
同校5年生で機械システム工学科の鳥羽広葉さん、武田匠さん、電気電子システム工学科の冨樫優太さんは小学3年生で震災を経験した。やがて地元の復興に役立つことを学びたいと考えたとき「震災前にたまたまテレビで見た福島高専の原子力人材育成の取り組みを思い出しました」と武田さん。ロボット技術への関心と復興への志を共に持つ3人は、のちにチームを組んで廃炉創造ロボコンに挑むこととなった。
彼らが出場した20年の第5回大会では、燃料デブリ(溶融燃料)の取り出しを想定した課題が与えられた。原子炉圧力容器を支える構造物(ペデスタル)の下にあるデブリを取り出すため、まずは構造物の内部にロボットを送り込む。このときロボットが通るのは、直径24㌢メートル、長さ4㍍の筒。この筒を下った先にプラットフォームがあり、正方形の穴が開いている。この開口部から約3㍍下にあるデブリの模型を引き上げ、今度は筒を上ってスタート地点に戻る。
多くのチームは、プラットフォーム上に親機のロボットを残し、子機による回収を試みる。ただし、実際の現場は原子炉格納容器の分厚いコンクリートに覆われているため、電波は届かない。大会でも暗闇にあるロボットを有線で操作することになる。
デブリ回収を想定した課題は前年(第4回)でも出題されたが完遂できたのは1校のみ。福島高専の鳥羽さんと冨樫さんも出場したが、模擬デブリを回収して戻れずに、涙を呑んだ。さらに第5回では、プラットフォームの床が平面ではなく凹凸のある板に変更された。模擬デブリについても、重量・形状不明のもの、円錐状のもの、柔らかく壊れやすいもの、とバリエーションが増え、一部は床に固着しているという条件も加わった。当然、実際の現場に近づくほど難易度は高まる。
この難題に対し、福島高専の3人はどう挑んだのか。まず検討したのは床の凹凸対策だ。不安定な地面では、戦車や工事車両などに用いられるキャタピラー型(履帯)にすることが多いが、彼らの選択は違った。開口部を跨ぐように親機を配置し、穴の真上から子機を降ろしたいと考えたからだ。キャタピラー型は左右の移動ができないため、穴の上での位置を微調整するのが難しく、その手前で止まらざるを得ない。そこで前後左右に走行できる「オムニホイール」を採用し、タイヤを3本ずつ重ねづけすることで、凹凸の溝にはまりにくくした。