原子力プラントの建設に携わりたくて転職した若きエンジニアは、3.11を機に原発の廃炉プロジェクトに配属された。未知なるデブリと格闘するリーダーの覚悟とは。
今年2月13日、廃炉作業が続く福島第一原子力発電所で、2号機の原子炉格納容器の底に溶け落ちた「燃料デブリ」の調査が行われた。今回の調査が注目を浴びたのは、遠隔操作ロボットのトングで堆積物を実際につかみ、動くかどうかを調べるというものだったからだ。そして、この調査プロジェクトの全体を統括したのが、東芝のエンジニアである中原貴之だった。
「格納容器の中にある『もの』を積極的に触りにいったという意味で、今回の調査は大きな前進だったと思っています」と彼は言う。
調査の開始は午前7時。事前に開けた格納容器に通じる細い穴から、調査用ロボットをゆっくりと挿入した。その日、免震重要棟に隣接する旧事務本館内にある遠隔操作室で、中原は関係者とともに固唾(かたず)を飲んでモニターを見つめていた。しばらくしてトング型のアームが小石に似た堆積物をつかむと、周囲から「おお、動く動く」と声があがった。
「その様子を見たときは、『ここまでできるようになったのか』という感慨が湧いてきました」
中原がそうした感慨を抱いたのは、彼が事故当初から福島第一原発の現場などで働き、廃炉作業にとって欠かせない内部調査を初回から担当してきたからだ。
1981年の生まれの彼は大学院を卒業後、一度はエンジニアリング会社に就職した。原発プラントの建設に携わりたいという思いをもともと持っており、2年後に東芝へ転職。間もなく震災が起こった。以来、事故の初動対応から廃炉作業に携わり続け、当初は作業員とともに建屋に溜まった汚染水を輸送するホースの設置なども行っている。事故後の初めての内部調査は2012年1月、前年にその担当者に任命されたときはまだ30歳になったばかりだった。