「強大な相手に挑むために一番必要なことはなに?」という質問にリーチ・マイケルは一瞬の躊躇いも見せずに「自信」と答えた。
「その自信を作るためは準備をしっかり行うことです。それもワールドクラスの準備であり、世界一のオールブラックスを上回る準備をすることです」
2015年9月世界のラグビー史に新たな1ページを刻んだ『ブライトンの奇跡』と呼ばれる一戦がある。それは第8回ラグビーW杯「日本代表vs南アフリカ代表」戦における日本代表の勝利である。
その日本代表のキャプテンがニュージーランド生まれのリーチ・マイケル。15歳で来日し高校大学と日本で学び、卒業後はジャパンラグビートップリーグや世界最高峰のプロリーグ・スーパーラグビーで活躍するワールドクラスの選手である。
ラグビー日本代表は1987年に第1回W杯が開催されて以降、第8回大会までの通算戦績は1勝21敗2分。一方の南アフリカは25勝4敗、W杯優勝2回という強豪国で圧倒的に南アフリカが優位と目されていた。
しかし、日本代表は「打倒! 南アフリカ」を掲げ、可能な限りの周到な準備を重ねて当日を迎えた。
試合は一進一退のまま後半へ縺れ込み、流れは日本代表へ。最大の見せ場となったのは試合終了間際、スコアは日本29-32南アフリカで同点のペナルティを日本が得たシーンだ。
世界中の誰もが日本がペナルティゴールで加点し引き分けに持ち込むだろうという流れを想像したはずだ。
日本のコーチボックスのエディー・ジョーンズHCからも「ショット!」の指示が出されていた。
しかし、フィールド上ではキャプテンの判断が絶対というのがラグビーだ。キャプテンのリーチ・マイケルはペナルティゴールではなくスクラムを選択した。
優勝候補に80分間挑み続け、ラストチャンスに引き分けではなく逆転勝利をねらったのだ。ひとつでもミスが起こればそこで試合終了という究極の判断だった。
だが、リーチ・マイケルに迷いはなかった。そして「史上最大の番狂わせ」と世界を驚かせた大逆転劇を演じてみせた。黒星続きだった日本ラグビーの歴史が変わった瞬間である。彼らは歴史の創造者となり、世界中のラグビーファンはその目撃者となった。
2019年3月、沖縄日本代表の合宿地でリーチ・マイケルキャプテンにその試合を振り返ってもらった。