2022年7月5日(火)

Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年8月26日

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稲泉 連 (いないずみ・れん)

ノンフィクション作家

早稲田大学第二文学部卒。2005年『ぼくもいくさに征くのだけれど—竹内浩三の詩と死—』(中央公論新社)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)がある。

 「もし8年前に今回のような調査をやれと言われたら、僕は『できない』と思ったかもしれません」

 実際、7年前の初めての内部調査を振り出しに、廃炉の現場での仕事は全てがほぼ手探りの状態で始まるものだった。例えば17年2月の調査では、ロボットが格納容器内までたどり着くことができなかった。対して次に行った18年1月の調査では、あらたに開発した釣り竿型のカメラ付きロボットで、格納容器内の撮影に成功した。そうした試行錯誤の8年間の中で、中原はこう感じるようになったと語る。

 「いまはどんな課題に対しても、『よし、やってやろう』と思えるようになりました。当時は現実的ではないと思えた調査も、一つひとつの経験を積み重ねることで可能にしてきたという実感があるからです」

 そう語る彼には、一人のエンジニアとして理想とする像がある。それは前の会社にいた際に出会った、次のような先輩の姿だという。

 「当時、僕はある工場で自家発電設備の運転保守をする仕事をしていました。そのとき、頼りにしていた年配の先輩がいたんです。彼はその設備の隅々まで知り尽くしていて、ちょっとした疑問にも『それは〇〇のバルブを少し締めればいい』と解決策を示してくれた」

 あるとき中原はその先輩に対して、「どうしてそんな細かいところまで知っているんですか」と聞いた。すると、彼はこう言って笑った。ずっとこの仕事をやっとるからなァ、と。

 「その様子がとてもかっこよくて。僕もこの仕事をやっていく以上は誰よりも現場に詳しくなって、書類に残らない経験や勘所を次の世代に伝えられる存在になりたいんです」

 中原が入社した直後から、東芝は原子力事業の頓挫や相次ぐ不正会計の発覚などの不祥事に揺れてきた。その渦中で働いてきた彼には、「会社の評判が決して良くないからこそ、世の中に胸を張れるような仕事をしていきたい」という気持ちもある。

 「『廃炉』というのはその名の通り、後ろ向きのイメージがある仕事です。でも、後ろ向きの仕事だからこそ、現場にいる自分たちは前向きでなければならないと思うんです。そうでなければ前に進めないからです。廃炉の現場には常に難しい課題があって、何をするにしても世界で初めてという仕事。それを自分にとっての貴重な機会だと捉えながら、今後も目の前の課題に取り組んでいきたいです」

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