高齢化も進み、その数を急激に減らしてきた日本のハンター。誰よりも野生動物と対峙してきた彼らの実態と思いを取材した。
Hunter3
南知床・ヒグマ情報センター
藤本 靖さん
「赤石さんは、『沢越えの射撃』をする人です。今までで一番遠かったのは800メートル先です。沢の向こうにいるヒグマを一撃で仕留めました」
圧倒的な〝クマ撃ち〟のエピソードを教えてくれたのは、NPO法人南知床・ヒグマ情報センターの藤本靖さん(63歳)。センターに所属する赤石正男さん(72歳)は、これまで400頭以上のヒグマを捕った「レジェンドハンター」だ。
「撃った弾はまっすぐには飛ばないんです。山なりに弧を描くようにして飛ぶ。300メートル先で大体60センチくらい上に逸れて、そこからまた下に軌道が戻っていく。そこも含めて計算できないと、一流ではありません」
山の中でいかに、クマを追うのか。
「ひたすらクマの足跡を追って、いくつも山を越えていく、そんなハンターもいましたが、赤石さんはその年の木の実のなり方を沢ごとに細かくチェックしています。木の実が豊作な沢筋のどこかに、冬眠間近までクマが居残るはずですから」
このままではハンターがいなくなる、という危機感から2009年にセンターを立ち上げた藤本さん。クマ撃ちの技術を後世に継承することは簡単ではない。
「必要な技術は3つです。クマの行動を見極める力、山を歩く力、正確な射撃です。射撃の練習は必須ですが、ゴルフと同様に、〝練習場名人〟では実地で役に立ちません。重い銃を担いで、どう山の中を歩くか、追跡している動物の足跡を見極められるか、身をもって知るほかないんです。簡単に『継承』と言いますが、それは実地でしかあり得ません。実経験をどれだけ積めるか。名人もそうして生まれてきたんです」
藤本さんは続ける。
「数年前、クマが居るはずのない礼文島に泳いで渡ったクマがいたように、『ある日突然』が全国の至る所で起きる可能性もゼロではありません。私自身は、国民の安全と生活を守るという意味でも、クマに対応できるチームを警察内に早急に組成すべきだと思っています。
各地の名人たちがまだ現存している間に、実地で実習を積ませた方がいい。あと5年もしたらそれはできなくなります。名人たちがいなくなるという〝終点〟はもう見えているのですから」