トランプ大統領の相互関税で世界は揺れに揺れている。世界の株式市場は下落と反動増を繰り返しながら暴落し、ドルは下落している。トランプ氏は、高関税をかけるだけでなく、場当たりに延期したり、スマホなど特定製品に関税をかけないと言ってみたり、またかけると言い出したり、実際のところどうなるか分からない。

製造業を取り戻すつもりはあるのか
トランプ氏の製造業を米国内に取り戻すという発想自体は理解できる。第2次世界大戦ではアメリカは民主主義の兵器廠(へいきしょう)となった。ロシアは、ウクライナが西側の兵器を使っているからけしからん、西側の手先だと言っているが、第2次世界大戦ではソ連もアメリカの武器でドイツと戦った。
2700万人の犠牲を出してナチスドイツを打ち破ったことは賞讃に値するが、その武器のおそらく2割はアメリカ製だった。アメリカは、1941年から45年まで、武器貸与法により、イギリス、ソ連、中華民国などの連合国に対して、莫大な軍需物資を提供した。
ところが、現在、アメリカには造船業がない。これに加えて、自動車産業や鉄やアルミもなくなれば、空母もタンクも戦闘機も作れない。現在の武器は半導体の塊だから、半導体も必要だ。ソフトを書いているだけでは武器は作れない。
そこまでは理解できるが、支離滅裂、朝令暮改の関税政策を繰り返しても、製造業はアメリカに戻ってこない。通常なら、輸入する場合と比べて何%増しのコストで造船業や半導体を取り戻すことができるのか、どこまで取り戻さないといけないのか、同盟国や友好国とどれだけ分担するのかを考えるものだろうが、トランプ氏が考えているとは思えない。包括的な製造業帰還戦略はないようだ。
戦後のニューヨークには60年代まで縫製工場が並んでいたが、今やまったくない。第2次世界大戦ではミシンを並べ、女子学生や主婦を動員して軍服を縫っていたが、現在のアメリカは、軍服も作れないだろう。軍服まで全部国内で作るのか、中南米の友好国に任せるのかの判断も必要だ。