何が起きるか分からないのにどう対策を打つのか
対する日本は、トランプ関税のショックに対して、景気刺激策を打ち出そうとしている。所得制限を設けない1⼈あたり5万円の給付案や、「ゼロゼロ融資」の復活、消費税減税、食料品に限った消費税減税まで様々な議論がなされている。
もちろん、赤澤亮正経済財政相の対米交渉が成功して関税がかからないようになる、トランプ氏がサプライチェーンの複雑さを理解して、必須の戦略的な製造業だけをアメリカに戻す方針になれば、大きな影響もなく終わるかもしれない。あるいは、関税をかけない代わりに、アラスカの液化天然ガス(LNG)を運ぶパイプラインを格安で作らされることになるのかもしれない。これでは、ソ連にシベリア送りで酷使された日本人捕虜と同じで、アメリカによる日本企業のアラスカ送りとなるのかもしれない。
関税ショックにどう対応するか
どれだけの関税がかかるかどうかもまだ分からないのだから、準備をするのは良いがそう焦ることもないのではないかとも思うが、すべての財の輸出品に24%の関税がかかると考えてみよう。
日本の財のアメリカへの輸出額は約21.6兆円(2024年)である。これに24%の関税がかかればアメリカでの価格が上がり輸出額は減少する。どれだけ減少するかを予測するのは難しいが、とりあえず金額で24%減少すると考えても構わないだろう。
すると5.3兆円の需要が失われる。日本の国内総生産(GDP)は600兆円であるから、その1%弱のマイナスの需要ショックである。これに対応するためには、1人当たり5万円の給付金が必要だというのは大まかの数字は合っている。
一人5万円なら5万円×1.27億人=6.35兆円となる。減税でもだいたい同じくらいの金額が議論されているようだ。ただし、トランプ関税がどうなるかも分からないので、減税や給付金の議論はしぼみつつあるようだ。
さて、減税ないし給付金の議論について、そもそも一律の給付ではなく、影響を受ける輸出業者に限るべきだという議論もある。しかし、トランプ関税が恒久的なものなら、それは却ってまずいことになる。
なぜなら、未来永劫に日本の対米自動車輸出が減るなら、それに対応するしかないからだ。これは原油価格が上がった時に無理やり補助金で原油多消費型の産業を保護すれば、産業構造の転換が遅れるのと同じことである。
そして、補助金は恒久的に払い続けることになる。現在、ガソリン補助金はそうなっているようだ。もちろん、トランプ氏の場当たり的な関税政策が一時的なものなら、急いで産業構造の転換をするより、一時的な補助金や低利融資でやり過ごすのが良いだろうが。
