2024年11月22日(金)

知られざる高専の世界

2022年2月26日

 次に車体を直径24㌢メートルの筒に収める必要がある。彼らは駆動輪のすぐ近くにモーターを配置し、タイヤを直接回す「インホイルモーター」にすることで、車体をなるべくコンパクトに抑えた。「この部品の製作や配置の微調整に苦労しました」と武田さんは振り返る。

プラットフォームの中央にある開口部からロボットの親機が子機を降ろし、模擬デブリを回収する

 プラットフォームに到達したら、いよいよ子機による模擬デブリの回収だ。前回大会ではアームによる回収を試みていたが、より確実性を高めるため、回転するブラシで対象物をかき寄せる戦術へと変更した。だが、このブラシに適した素材がすぐには見つからなかった。鳥羽さんは「校内で目につく素材は片っ端から試しました。デッキブラシの毛を抜き取って、ナイロン製や金属製を比較したり、樹脂やゴムの素材を試したり。毛が硬すぎても回収できないので、しなやかでグリップ力のある素材を探し求めました」と話す。

 辿り着いたのは、自動車やオートバイなどのエンジン部品として使用される「タイミングベルト」の素材だ。通常のゴムではまだ硬く、ウレタン製のタイミングベルトがまさしく理想としていたものだった。一方、もろい物体は回転ブラシの衝撃に耐えられないため、アームで引き寄せる機構も併用。固着したデブリを剥がすため床との接地面はヘラ状にした。

 さぁ、模擬デブリを回収し、ミッションは後半戦に突入。しかし前年はここで子機を引き上げる際に遠心力でワイヤーが絡まり、回収した物体が落下するトラブルに見舞われた。そこで今回は2本のベルトで安定性を向上させた。

 さらに今大会では、ロボット本体以外でも新たな試みがあった。冨樫さんが一から手がけた、センシング・マッピング技術だ。車体に搭載した360度カメラやレーザーポインターなどで位置や傾き、周辺の構造物を把握し、パソコン上に表示するアプリケーションを開発したのだ。「ロボットの設計データを取り込むところから手探りで始め、約5カ月かかりました。これまで出場してきた高専ロボコンの経験が役立った」と冨樫さんは話す。

「第5回廃炉創造ロボコン」で最優秀賞を受賞したメンバー。左から、武田匠さん、冨樫優太さん、鳥羽広葉さん

 残念ながら第5回大会はコロナ禍のためビデオ審査となったが、3人が磨き上げた技術は「完成度が高い」と評価され、福島高専で初の最優秀賞を飾った。鈴木准教授は「廃炉創造ロボコンでは課題解決だけでなく、課題発見力も求められます。課題設定においても競技として成立する範囲であえて隠れた課題を見出す余地を残しています。失敗から学ぶことが重要なので、基本的には2年連続で同様の課題を設定してきました」と話す。廃炉作業には、デブリ回収以外の工程もある。21年に開催された第6回大会では「壁の除染」が新たな課題として設定され、小山高専が最優秀賞を受賞した。

まずは現状を知ることで
原発の活用法を考える

 廃炉創造ロボコンで披露されたアイデアや技術が実際の現場に生かされることも、もちろん期待されるが、この分野に関心を持つきっかけになることが、最大の成果と言えるだろう。「震災から日が経つにつれ、福島から離れるほど、いまだに事故直後のイメージを持っている人もいるので、まずは現状を知ってほしい」と廃炉創造ロボコンの参加者を対象に、福島第一原子力発電所などの関連施設を視察するサマースクールも開催されている。

 「将来、廃炉に携わることも選択肢の一つだと考えています」と冨樫さん。鳥羽さんは「一連の活動を通じて、原発に携わる人たちの生の声を聞いてきました。原発再稼働の是非を決めるにしても、まずは知ることが大切だと感じています」と話す。そして武田さんは「1年生の頃から原発関連の講義を積極的に受け、関連施設の視察にも参加してきました。現状や問題点など聞くうちに具体的な課題も見えてきて、原発の有効活用を見据えたときに技術の安全性を高める余地はまだあると思いました。今後も復興、そしてエネルギー問題に貢献できる技術者を目指したいです」と語った。

 「廃炉」という困難なミッションに挑むことは、他分野にも新たな可能性をもたらすだろう。例えば災害の発生時や宇宙空間など制約のある環境下で高度な制御技術が求められる場面がある。事実に潜む課題を見抜き、自ら立ち向かう若き世代の「創造力」が明日を切り拓く。

Wedge3月号では、以下の​特集「魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない
PART1 魚が減った本当の理由 日本の漁業 こうすれば復活できる
片野 歩(水産会社社員)​
 Column 1  その通説は正しいのか? 漁業のギモンにお答えします
PART2 ノルウェーだって苦しかった 資源管理成功で水産大国に
ヨハン・クアルハイム(ノルウェー水産物審議会(NSC) 日本・韓国ディレクター)
 Column 2   原始時代から変わらぬ日本の釣り 科学的なルール作りを 
茂木陽一(プロ釣り師)
PART3 70年ぶりに改正された漁業法 水産改革を骨抜きにするな 編集部
PART4 「海は俺たちのもの」 漁師の本音と資源管理という難題
鈴木智彦(フリーライター)
PART5 行き詰まる魚の多国間管理 日本は襟元正して〝旗振り役〟を
真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授)
PART6 「もったいない」を好機に変え、日本の魚食文化を守れ!
島村菜津(ノンフィクション作家)
 Column 3  YouTuber『魚屋の森さん』が挑む水産業のファンづくり 
森 朝奈(寿商店 常務取締役)
 Opinion  この改革、本気でやるしかない  編集部
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Wedge 2022年3月号より
魚も漁師も消えゆく日本
魚も漁師も消えゆく日本

四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか


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