「汚染」と批判する住民団体
ところが、この実証事業に対し、「危険な汚染物がばら撒かれる」かのように喧伝し、妨害する人々がいる。所沢を舞台とした『汚染無きものへの「汚染」冤罪』は、まさに往年の「所沢ダイオキシン騒動」を彷彿とさせるのではないか。
2023年2月24日、東京都千代田区の参議院議員会館で「所沢への福島原発汚染土持ち込みを考える市民の会」「埼玉西部・土と水と空気を守る会」「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」を名乗る団体などが、環境省に実証事業の中止を迫る申し入れを行った。
彼らはその理由として、「実証事業実施予定地の近隣には、学校や病院、公園等がある市民の生活圏であり、雨や風等による汚染土の流出が懸念されている。特に、子どもたちへの影響が強く心配されている」「新宿は近年、特に海外からの旅行者が足を運ぶ国際的な観光拠点となっており、問題は事業実施予定地の近隣に限られたものではなく、国際的なレベルで考えられなければならない」「放射性物質の濃度について、セシウム137以外のすべての核種の量が測定されていない」などと主張する。
しかし、これらは全て事実に基づく主張とは言い難い。
そもそも前述のように処理土は被曝によるリスクが生じることは考えにくい上、実際の施工は50センチの覆土までする。人々の健康に影響を与えるものではない。
さらに海外からの旅行者が足を運ぶというなら、危険でないものを「汚染」呼ばわりして誤解や偏見を引き起こす言動の方が尚更正当化されないのではないか。科学的リスク無き土壌の埋め立てを問題視する行為の何が「国際的なレベルで考える」に繋がるのか。
セシウム137以外の測定要求にも妥当性が無い。原発事故で飛散し、今も影響が残る放射性物質はセシウムがほとんどの割合を占める。これを測れば科学的安全性の観点からはリスク評価として必要充分であり、全ての核種の測定は無意味と言える。
しかし、彼らは頑なにセシウム以外の核種、特にストロンチウム90をしばしば問題視する。この日の申し入れでも、国際環境NGO「FoE Japan」事務局長の満田夏花氏が『ストロンチウム90については、1F(福島第一原発)の周りで、最高値として5700 Bq/㎡の測定値』と言及し、除染土壌のストロンチウム測定を要求したと報じられている。
しかし、外部被曝を懸念するなら考慮すべきは透過力が強いガンマ線である。ストロンチウム90が出す放射線はベータ線であり、木の板1枚で遮蔽できるほど透過力が弱い。当然ながら処理土は食品ではないため、実証実験で内部被曝を懸念する必要も無い。この時点で議論は事実上終了している。
これまで述べてきたセシウムやガンマ線を測定する妥当性、それぞれの核種が出す放射線の種類などについては以下の農水省サイトで判り易く解説されているのでご参照頂きたい。(放射性物質の分析について(農水省))
被災地復興に不可欠な事業
中間貯蔵施設に運ばれた大量の除去土壌は被災地に多大な負担を強いて、復興への大きな足枷となってきた。
これまで述べたように除去土壌の大半は安全な再生利用が可能で、福島では飯舘村長泥地区で花卉、野菜、米の栽培などの実証事業が先行して行われている。総理大臣官邸、各省庁と大臣室、自民党本部や公明党本部など利用実績も多数ある。
被曝影響があるなら上記の関係者に真っ先に被害が生じるはずだが、当然ながら何ら問題は起こっていない。