原発の設計の専門家である、先の宮野廣氏は次のように語る。
「あえて、(ドライウェル)スプレイを止めて、(ラプチャーディスクを)壊すために内圧を上げるかというと、それは基本的にないと思う。要するに、冷却して、(ドライウェル)スプレイして、圧も下がっている。だったらそれを維持する。冷却を止めてまで、そういうことをするかというとそれは基本的にない、設計上は」
ここでも、国、政府の容喙(ようかい)があった。吉田所長の責任ではない。政府が事故の手順書を知っているわけはない。
世界の原発はどう変わってきたか
File.8は、1Fの事故を契機として、世界が「脱原発」を目指した流れが大きく転換していることを報告している。直接的には、ロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギー安全保障の観点から原発を見直す傾向である。日本政府も既存の原発の更新と新型炉の建設に舵を切った。
フィンランドのオルキルオト原発3号機は、欧州加圧水型炉の新型炉である。建設期間約17年をかけて近く稼働を開始する。
1Fの事故などを参考にして、安全装置として「コアキャッチャー」を備える。メルトダウンによって溶けた核燃料を誘導する装置を地下に取り付けて、その下から冷却する。運転員の作業は必要なく、事故の際に自動的に行われる。
既存の原発に対しても、改良が加えられている。例えば、やはりフィンランドのロヴィーサ原発は2003年までの大規模工事がほどこされた。発電所の下半分をワインクーラーのようにして、地下に入れて冷却装置を整備する。事故の確率は30分の1になる、としている。
西ヨーロッパ原子力規制者協会(WENRA)のトップを務めていたユッカ・ラクソネン氏は次のように語っている。
「チェルノブイリ事故後、安全文化の重要性が強調されるようになりました。メルトダウンが起きても人々に生活を続けてもらうためです。各国の規制機関のトップの間で意見の相違はありません。原発の安全性をともに向上させていかなければならないとう雰囲気と姿勢があります。これまで起きた事故と同様の事故が起こる可能性は排除されています。しかし、将来なにが起こるかは分からないのです」
メルトダウンシリーズの圧巻のルポルタージュに他のメディアも追随して欲しいと願う。東京電力第1原発の原子炉の解体作業はこれからである。また、その作業のなかでさまざまな事故原因の発見があるだろう。その追及は、日本というよりも人類のためなのである。