タン、タンタンタンタン!
小気味よい音を立てて、ハンマーが一寸ほどの釘を打ち込んでいく。
住宅の建築現場ですら釘を打つ音を聞くことはなくなってしまったが、なぜか、人間が釘を打つリズムは耳に心地よい。機械に指示されたリズムではないからだろうか。
岸産業株式会社──。
大阪の堺市にある社員37人の、この小さな会社は、特殊扉の専門メーカーである。特殊扉とは、食品加工場などの冷蔵・冷凍倉庫の防熱扉や危険物倉庫の防爆扉など、文字通り、特殊な機能を持った扉だ。社長の岸晃広さん(47歳)によれば、同社はもともと大阪市中央卸売市場の仲買人相手に冷凍設備をつくっていた。
「1980年代に大手が参入してきて、価格面でまったく歯が立たなくなりました。一方で、物流や食品加工の世界では大型の冷蔵庫がつくられるようになっていたのですが、国内に大型の防熱扉をつくれるメーカーがほとんどなく、皆さんアメリカから輸入をしていたのです」
そこに、岸産業は活路を見出した。防熱扉の製造に経営資源を集中すると、2017年には祖業の冷凍設備事業を手放す英断を下して、一躍、防熱扉のトップメーカーとなったのである。現在、このニッチな業界で製造から施工まで一貫して行うのは、全国で4、5社しかないという。
工場長の濱口大志さん(47歳)は、「新しい物を一からつくるって、めちゃくちゃ楽しいですよね」と妙にハイテンションで言うのだが、岸産業の防熱扉はすべてオーダーメードである。常に「新しい物」をつくっていることは間違いない。
ところで堺といえば、秀吉に仕えた茶人、千利休の生地として名高い土地である。戦国時代には鉄砲鍛冶が活躍し、堺の打ち刃物(包丁)は今でも全国区の人気を誇る。堺には古くから、ものづくりの伝統が息づいているのだ。社長の岸さんが言う。
「うちは5年前まで通天閣の麓に工場があったので、堺のものづくりとは、まったく関係ないんです」
思い切り空振りをしたところで、今回の〝つくりびと〟、松留拓磨さん(47歳)に登場してもらおう。
