壁から飛び出した握り寿司、くねくねと壁をはう龍、上から見下ろす巨大なタコ──。ユニークな立体看板がひしめきあう道頓堀には、いかにも〝大阪らしい〟景色が広がる。
「ある日突然、得意先から『道頓堀の金龍ラーメンさんの立体的な龍を作ってほしい』と言われたんです。最初は断りましたが『なんとかなる』の精神で引き受けたんです」
立体看板を製作するポップ工芸(大阪府八尾市)初代社長の中村雅英さん(75歳)は、1990年代初頭に初めて立体看板を製作した時のことをそう振り返る。今では道頓堀の立体看板の約8割が同社製だ。
大きなタコがトレードマークの道頓堀のたこ焼き店「しらんがな!!」店主の大地さんは、30年以上前に金龍ラーメンの龍を見てから、ポップ工芸の立体看板を掲げて道頓堀で商売をするのが夢だったといい、「3年ほど前に念願がかないました。今では看板を目印に来てくれるお客さんも増えて売り上げもアップしましたよ」と喜ぶ。
雅英さんは、元会社員。美術学校を出たわけでも、造形に興味があったわけでもない。とにかく時間に拘束されることが大嫌いだった。自分で自由に商売をしたいと考えて会社員を辞めた。将来独立できる仕事を探し、建設会社や和菓子店などの仕事を転々とする中、新聞の求人広告で平面看板製作の仕事を見つけて就職、1年間働いて独立した。