2025年12月6日(土)

つくりびととの談い

2025年12月6日

 京都府宇治市槇島町に、西山ケミックスという会社がある。

 社員数32人。ゴム製品の製造とフィルム加工を専門とするが、そもそも精度を出しにくいゴム製品を高精度で仕上げる技術を持っている。

 宇治市と聞いて平等院や『源氏物語』の「宇治十帖」を思い浮かべる人が多いかもしれないが、西山ケミックスは工業団地の一角にあって、周囲に雅な雰囲気は微塵もない。最寄りの近鉄京都線向島駅周辺も、東側は大規模な団地、西側には広大な水田が延々と続くばかりで、やはり平安貴族とは無縁である。

 この、いささか殺伐とした風景の中にゴム成型のプロがいる。

 竹下信也さん(35歳)。西山ケミックス(以下、西山)でゴムグループのリーダーを務める人物である。

ゴムの材料を練る竹下さん。ゴムを等分に伸ばすこの作業ができるのは社内で3人だけという(写真・Bond 大西史晃 以下同)

 竹下さんの入社は2013年のことだが、これには前段があった。

 「小中高と野球に打ち込んだので、教師になって野球部の監督になりたい、子どもたちに野球を教えたいという夢を持っていました」

 高校を出て通信制の大学に入学すると、学費を稼ぐため日中はアルバイトに勤しんだ。そのバイト先が、たまたま自宅から自転車で5分の距離にあった西山だった。

 真面目に働き真面目に勉強をして、4年間で見事中高の社会科教員の免許を取得した。ここまでは夢に思い描いた通りの人生であった。

 ところが、とんでもない番狂わせが起こる。なんと……。

 「西山の仕事が、面白くて仕方なくなってしまったんです」


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